頭痛にもいろいろあって、「あなたの頭痛は神経痛です」と申し上げますと、「エッ、頭にも神経痛があるの?」とビックリされる方が多いのですが、頭にも神経痛があります。神経痛とは、神経が刺激を受けたせいでビリッとした電撃的な痛みが走る場合を言います。
例えば、どなたも肘のところで神経の通っている部分を打った時、手先に向かってビーンと痛みが走った経験があるでしょう。これが神経痛で、ズキッ、ズキズキッとか、ピリッ、ピリピリッなどと痛み、ビリッとした次の瞬間には痛みは止る特徴があります。つまり痛みの続く時間は実際は数秒間、このような短時間の痛みを繰り返します。そして痛みと痛みの間には、間欠期と言って必ず痛みの止っている時期があり、その間は、全く痛くないので患者さんはニコニコしていると言う特徴があります。
顔面が痛むので有名な三叉神経痛や、胸が痛む肋間神経痛も神経痛ですから、ずーっと痛むことはなくて、間を置いて短時間の痛みを繰り返すと言う特徴があります。ずーっと痛むのなら、別の病気を考えなくてはいけません。
さて頭の皮膚にも、皮膚の感覚に働いている神経が分布しています。そして髪の毛の生えているところを走っている何本かの神経をまとめて後頭神経と言います。この後頭神経に神経痛が起こりますと、後頭部から頭頂部にかけて、あるいは耳の回りなどにピリッ、ピリッもしくはビリッ、ビリッとした痛みが間欠的に走ります。
この後頭神経は首の部分の脊髄から枝分れし出ています。そこで後頭神経痛の原因は、神経が頚椎の間を通り抜ける椎間孔と言う部分で圧迫されたり、神経が通る後頭部の筋肉で圧迫されたりして起こると考えられています。つまり、頭は痛いけれど、その原因は首にあると言う訳です。なかでも一番多い原因は、実は肩こりなのです。
顔面が痛むとひとことで言いましても、時々、ズキ―ッとか、ズキズキと痛む場合と、ズーッと痛い場合とでは、痛みを起こす原因が違います。例えば、ズキッとか、ズキ、ズキッとか短時間痛んで、しばらく痛みが止ったかと思うと、また痛むと言う具合に、間を置いて痛むのは神経痛です。
顔面の痛みの感覚に働いているのは三叉(さんさ)神経ですから、顔面がそのように痛めば三叉神経痛です。一方、ズーッと長い時間、例えば1日中痛いなどと言うのは三叉神経痛ではありません。
三叉神経痛では、痛みの持続時間は短いのですが、傷口をキリで突くような激しい痛みで、風が吹いたり、大声を出したり、物を飲み込んだり、マバタキをしたり、上を見ただけでも、それがキッカケとなって、痛みが起こることがあります。痛みが始りますと洗顔、ヒゲ剃り、食事、歯磨きなどが出来ないこともしばしばです。結局、三叉神経痛には、次のような特徴があります。
一方、顔面がズーッと痛む原因で多いものとしては、蓄膿症(副鼻腔炎)などからくる痛みがあります。この副鼻腔炎は、風邪の後に起こることが多く、顔面だけでなく、前頭部や眉間が痛むこともしばしばです。痛みはうつむくとひどくなるという特徴があります。
その他、注意しておかなければいけない顔面の痛みにヘルペス(帯状疱疹)によるものがあります。額(ヒタイ)の部分は、この帯状疱疹のよく起こる場所で、ブツブツとした発疹のでる何日か前から神経痛様の痛みが始ります。発疹が出てからでは、すぐに診断がつきますが、痛みだけあって発疹がない始めの時期では、ヘルペスかどうか分からないのです。
しかし、このヘルペスはちゃんと治療しておかないと、後で帯状疱疹後神経痛と言って、一生、痛みで苦しむことになります。
顔面の感覚は3本の枝を持つ三叉神経が司っています。この三叉神経の3番目の枝である第3枝の経路のどこかに障害が起こりますと、頤部(おとがい)および下口唇に限局したしびれなどの感覚異常(頤しびれ症候群)が起こります。また、三叉神経の第2枝である上顎神経の先にある眼窩下神経に障害が起こりますと頬部(ほっぺた)にしびれなどの感覚鈍麻を生じます。稀に癌などの「できもの」によって神経が圧迫されて起こることがありますので注意が必要です。また、脳幹部にある三叉神経核の血流が悪くなると片側の口唇の外側が短時間、しびれたりすることがあって、これは脳梗塞の前触れのことがありますので注意しましょう。心臓の病気、例えば狭心症では、稀にアゴが痛くなったりすることもあります。
朝起きた時や、夜中に目が覚めた際に、手がしびれたり、痛んだりする場合、手根管症候群(しゅこんかん)が疑われます。この病気は 中年の女性に多い病気で、手指へ行く正中神経は手首のところで手根管という狭いトンネルを通りますが、手をよく使ったりする方では、このトンネルが狭くなって神経の圧迫が起こるのです。手根管症候群になると、夜間や明け方にしびれが強くなることがしばしばで、手を振ったりすると、一時的に治ったりするのも特徴の一つです。
手指にゆく神経のうち尺骨神経(しゃっこつ)は、肘の関節の内側の部分にある肘部管(ちゅうぶかん)という管を通っています。
誰しも肘を打った際に、手がビリビリした経験があると思います。この肘部管のところで、尺骨神経が障害されますと手のひらの小指側、すなわち小指、薬指の小指側半分のしびれが起こり、これを肘部管症候群と呼びます。
散髪やパーマで洗髪の際、あるいはウガイや、高いところの物をとろうとしたりして、後ろに首を伸ばした時に、手足にしびれが走るなら、椎間板ヘルニアなど頸椎の病気の場合があります。
これは首をのばした時に、神経の通る管が狭くなり、神経が圧迫されるためです。頸椎の椎間板ヘルニアかも、と申し上げますと、エッ首にもヘルニアがあるの?とよくびっくりされます。
腰椎の椎間板ヘルニアは有名ですが、腰椎ばかりでなく、頸椎の椎間板ヘルニアも結構多い病気で、年配の方ではそれ以外に、老化現象で生じた頸椎の骨の飛び出し(トゲのようなもの)で神経が圧迫されることもしばしばみられ、その際もやはり首を後ろに反らした時に両手にしびれが走ることがよくあるのです。
首から出て手や腕の方に行く神経や血管は、首から出てすぐのところで斜角筋と言う筋肉の隙間を通り、さらに肩の部分で肋骨のうちの一番上にある第一肋骨と鎖骨との間に出来た狭い隙間を通ります。この隙間のことを胸郭出口と言います。胸郭出口症侯群は女性に多く、特に「なで肩」の方では、この通路が特に狭くなりやすいので、神経や血管が圧迫されることが多いのです。
なかでも手や腕をよく使うことの多い職業の方にしばしば見られます。例えばキーパンチャー、タイピスト、電話交換手など、あるいは腕を上げていることの多い美容師さん、高く腕を上げて黒板にチョークで字を書く学校の先生などに多いと言われています。そして重たいものを持ったり、腕を上に挙げるとシビレが強くなるという特徴があります。胸郭出口症侯群では肩こりや腕から手のだるさに加えて、脇の下から小指までの腕の内側の部分のしびれや痛み、また動脈が圧迫されると、血液の流れが悪くなって腕や手の冷たい感じなどが起こってきます。
橈骨神経が傷害されると手首と指が下がった状態、すなわち下垂手(ドロップハンドと言います)になり、手の背屈が出来なくなりますが、これを橈骨(とうこつ)神経麻痺と言います。普通、しびれることはありません。
麻痺の原因は、脇と肘の間の上腕中央部で橈骨神経が圧迫されて起こることが多く、大量の酒を飲んでベンチに腕を投げ出すような姿勢で熟睡した場合、腕をイスの背もたれにかけたまま、あるいは恋人の頭を腕枕にしたまま寝込んでしまった時など、週末に多いことから、「土曜の夜の麻痺」とも呼ばれます。
腓骨(ひこつ)神経が傷害されると、足先を持ち上げる筋肉が弱くなって足先が上方、すなわち足の甲の側に曲がらなくなり、いわゆる下垂足になります。腓骨神経は、膝の裏のすぐ下のあたりで、ふくらはぎ外側の皮膚の表面を通っている神経で、下腿の骨の腓骨頭の後ろを巻きつくように走行します。
この神経の麻痺が起こる最も多い原因は、膝の外側にある腓骨頭部が外部から圧迫されることです。この麻痺が起こりやすいのは、寝たきりのやせた人、安全ベルトのかけ方を間違えたまま車いすに座っている人、あるいは長時間脚を組む癖がある人などです。骨折の後にギプス固定をしているときにも起こることがあります。