認知症 アルツハイマー病を中心として

認 知 症  -アルツハイマー病を中心として-

  1. 認知症の原因 ―最初の段階での検査の必要性―
  2. アルツハイマー病の初期症状 ―早期発見の重症性―
  3. 認知症早期診断の難しさ
  4. こんな物忘れにご注意
  5. アルツハイマー病の症状の経過
  6. アルツハイマー病の原因
  7. アルツハイマー病の危険因子と予防の手がかり
  8. アルツハイマー病の予防
  9. アルツハイマー病の治療に使われる薬
  10. 脳血管性認知症
  11. レビー小体型認知症
  12. 前頭側頭葉変性症
  13. 認知症と鑑別が必要な病気
  14. 認知症の検査

元気で長生きしたいというのは誰しもの願いですが、現在65歳以上の方のうち10人にひとりが認知症にかかっていると言われ、高齢化社会を迎え認知症にかかる方が急速に増えています。少し前までは、認知症患者さんの数は日本全国で約100万人と言われていました。これが2030年には300万人に達すると予測されています。ところで一人の認知症患者さんには、平均3人の係累(家族などの関係者)がいると言われています。認知症患者さんは介護が必要になることが多く、そうなりますと、今後、本人と合わせて1200万人もの方に、その影響がおよぶことにもなる、大変な事態を招くことになる可能性があるのです。

2794人を最大29年間にわたり追跡調査を行った研究では、400例が認知症を発症、そのうち292例がアルツハイマー病であった。認知症は女性では5人に1人、男性で6人に1人、アルツハイマー病は女性5人に1人、男性10人に1人の発症可能性が推定されるとのことである。

ところで、認知症による「物忘れ」を「年のせい」だと思われている方が多いようです。しかし認知症は、年をとったことによる単なる「物忘れ」ではなく、病気なのです。実際、80歳台の方4人のうち1人は認知症にかかっていることが分かっていますが、残りの3人は正常であり、高齢者と言えども、どちらかと言えば、正常者の方が多い、すなわち高齢になっても認知症にかからない人の方が多いのです。
認知症とは物忘れ(記憶障害)などにより日常生活や社会生活に支障をきたす病気です。

認知症の原因 -最初の段階での検査の必要性-

認知症の方のうち50%はアルツハイマー病、20%が脳血管性認知症(脳梗塞などによるもの)、そしてレビー小体型認知症が20%と言われています。それ以外に認知症の10%弱程度ですが、「治療可能な認知症」の場合があります。例えば、甲状腺機能低下症、薬剤性認知症、ビタミン欠乏症、慢性硬膜下血腫、特発性正常圧水頭症などで、これらの病気は早期に発見しさえすれば、適切な治療により回復が期待できます。しかし、きちんと検査を受けておかないと、治せる病気であるにもかかわらず、見逃されてしまうことにもなりかねません。そのため認知症の初期診断において、検査を欠かすことが出来ません。それは、きちんと診断し、このような「治療可能な認知症」を見逃さないためなのです。

最初に一番多い、アルツハイマー病の説明から始めます。

アルツハイマー病の初期症状 -早期発見の重症性-

認知症患者の半数以上を占めるアルツハイマー病では、「物忘れ」から始まり、正常と認知症との間にある「軽度認知障害:Mild Cognitive Impairment;MCI」を経て、軽度の認知症へと進み、さらにゆっくりと進行してゆきます。

人の名前や物の名前が出てこない等、年齢の割に物忘れが目立つものの、料理が作れる、身だしなみを整える等の機能に障害が無く、すなわち社会生活に支障がない場合を「軽度認知障害」と言いますが、放っておくと、この軽度認知障害の方のうち、1年当たり平均12%、4年間でおよそ半分の方がアルツハイマー病に進行するということが分かっています。

すなわち、軽度認知障害とは、将来アルツハイマー病を発症する可能性が高い発症予備軍と考えられます。この軽度認知障害の時期に発見し、適切な治療を行えばアルツハイマー病に進行することを予防出来る可能性があります。そこで、最近、早期発見の必要性が、盛んに言われているのです。

なおアルツハイマー病では、知的能力低下に先立つ2〜3年前から、軽度の人格変化が起こることも多く(例: 頑固になった、自己中心的、怒りっぽくなった、人柄に繊細さがなくなった、だらしなくなった)、また不安・抑うつ症状が出ることもしばしばみられます。

軽度認知障害の診断基準

  1. 物忘れがひどいという自覚症状があり、他の人からもそれが指摘されている
  2. 記憶検査で年齢に比し異常な記憶力低下
  3. 全般的な認知機能は正常
  4. 運転や家計などの日常生活の能力は保たれている

認知症早期診断の難しさ

高齢の方は、たいてい、血圧やその他の病気で病院や診療所に通院されていることが多いのですが、日常の外来では案外、認知症にかかっていることに気付かれることが難しいのです。

その理由のひとつが、認知症による「物忘れ」を年のせいだと思っている人が多いこと、そして認知症による物忘れが起こりだすと、「物忘れをしていること自体を忘れてしまう」ため、本人に「物忘れをしている」と言う自覚、すなわち病識がないため、「物忘れ」の存在を医師に相談しようとされないことが上げられます。そこで、毎日、接している家族の方からの情報がとても大切になります。それ以外にも次のような理由があります。
認知症の初期には戸惑いと不安を自覚することが多い、それで隠そうとする。

認知症の初期には、本人も内心では、物忘れに気付き、「おかしいな?どうしよう」と不安な気持ちになることが多いようで、戸惑いをおぼえ、「認知症を隠そうとする行動」が見られることが多いのです。そのせいもあって、かかっていることに気付かれることが難しくなります。

もっともらしさと取り繕い
アルツハイマー病患者さんの特徴として、「取り繕い」が上手いことがあげられます。特に、初期のアルツハイマー病患者さんは、理由をつけて、上手くその場を切り抜けるため、日常会話の範囲内だけでは、変化に気付くことがなかなか難しいのです。つまり記憶障害は存在するのですが、社交性は保たれている結果、ついつい、その場を取り繕う言動とってしまうことがアルツハイマー病の特徴とも言えます。例えば、日常の診察の中で「お変わりはありませんか?」「具合の悪いところはありませんか?」などと質問しましても、「毎日、元気に畑仕事をしています」などと答えたりされることが多く、診察中の会話の中で認知症の存在を疑うことはかなり難しいのです。

「取り繕い現象」とは、指摘されたことを誤魔化すため、上手に理由をつけて話すことで、アルツハイマー病の方では一見、正常であるように「取り繕う」振る舞いが特徴的であると言えます。

例えば「今日は何日ですか?」と質問すると、「うーん、この歳になったら日にちは関係ないからな」とか、「今日は忙しくて新聞もテレビも見てこなかったから」と言い訳を入れて取り繕い、その場をうまく切り抜けます。そんなこともあって、例えば、ご近所の方も、本人と世間話をしているだけでは、認知症の存在に気づかないことが多いのです。

「お歳はいくつですか?」という質問の場合、「大正13年生まれやから、先生考えたら分かるでしょう」というような回答をしたりします。自分の年齢は忘れても、生年月日はなかなか忘れませんので、その場を取り繕う反応として、このような回答をするのです。

「最近のニュースはどんなことがありましたか?」と言う質問の場合、アルツハイマー病の患者さんは、46%が「分かりません」と回答し、42%が「あまりニュースを見ないので分かりません」というような回答をし、10%が「不正確」な回答や「古いニュース」を回答するそうです。しかし、認知症患者さんでも2%の方は正確に回答するそうです。このうち「あまりニュースを見ないので分かりません」という回答は、取り繕い反応の一つです。

話の途中での「振り向き動作」
「振り向き動作」とは、質問された際に、家族を頼りにして、しばしば家族の方を振り向く動作をすることです。家族がそばにいなくても、そのような動作をすることがあります。これは言葉が出にくい+記憶があいまい → 家族の顔をみて、話させようとするためです。
例えば「今日は何月、何日ですか?」と質問すると、「何月でしたっけ」と夫の方を振り返って尋ね、夫に話させようとします。
「昨日の晩御飯は何を食べましたか?」 「えーっと〜  何やったかな〜 いつもと同じ あれやな」と家族の顔を見ながら、家族に固有名詞を出させようとしたりします。

言葉の出にくさから「あれ、それ、これ」が増える
会話の中で必要な単語が思い出せなかったりするため、会話のなかでの語彙(単語)の減少があるものの、全体としての発話量は保たれることから、一見、流暢に会話することが出来ます。しかし頭の中で考えていることが、言葉で表せなかったり、単語が思い出せなかったりしますので「言葉の言い換え」や指示語、代名詞「あれ、それ、これ」が多くなります。「それは〜 、え〜 、何て言ったかな〜  、むかしのことやったからな〜、  あの〜 、あれしたりするのも〜そうですわ」

こんな物忘れにご注意

以下の症状のうち8割以上があてはまる場合は「病気による物忘れ」の可能性が高いと考えられます。

  • 何度も同じ話を繰り返したり、聞いたりするが、同じ話をしているという意識の無い状態。
  • 知っているはずの人の名前が思い出せない。
  • 物がしまってある、もしくはしまった場所を忘れてしまう。
  • 漢字を忘れてしまう。
  • たった今しようとしていることを忘れてしまう。
  • 器具などの説明書を読むのが面倒。訳も無く気持ちが落ち込んでしまう。
  • 自分の身だしなみに関心を払わなくなった。
  • 外出がおっくう。
  • 財布などの物が見当たらないと他人のせいにしてしまう。

認知症チェック項目

  1. 今日の日付が思い出せないことがある
  2. 最近の出来事を思い出せない。時間や場所の感覚が不確かになった。
  3. 同じことを何度も言ったり聞いたりする
  4. 物をどこに置いたのか忘れることがある。置き忘れやしまい忘れが目立ってきた。財布などを盗まれたという。
  5. 前に買ったことを忘れ、同じ物をたびたび買うようになった。
  6. ガス栓の締め忘れで鍋を焦がしたり、水道の止め忘れが目立つようになった。
  7. 物の名前が出てこなくなった。
  8. 身だしなみを構わず、だらしなくなった。決まった日課をしなくなった。
  9. 通いなれた道なのに迷うことがある
  10. 生活への意欲が低下している。趣味や楽しみに興味や関心がなくなった。引きこもることが多くなった。
  11. 簡単な計算なのに手間取ったり、間違えたりする。買い物をしたときにお金の計算ができない。
  12. 使い慣れた道具の使い方が分からなくなった
  13. ささいなことで怒りっぽくなった。

以上のような症状が3つ以上、思い当たる方は医師に相談しましょう。

老化が原因の「物忘れの場合」

1.やったことの一部を忘れる、2.置忘れや名前を忘れるなど、体験の一部を忘れる、3.物忘れを自覚していると言うような特徴がありますが、
認知症の場合の「物忘れ」では、1.やったことを全部忘れる、2.生活体験の全体を忘れる、3.物忘れを自覚していないという特徴があります。
すなわちアルツハイマー病では、例えば、約束した内容だけではなく、約束したこと自体を忘れたり、食事の献立ではなく、食事をした体験そのものを忘れてしまうといったことが起こります。これらのもの忘れによって生活に支障がでてきます。

  • 自分がしたこと自体を忘れてしまう
  • 「散歩でどこへ行ったか」どころか、「散歩をしたか、しなかったか、散歩したこと自体」をも忘れてしまう
  • 昔から続けてきたことを忘れてしまう。ずっと昔からいつも散歩している道なのに、道順を忘れてしまい、自宅に帰れなくなる
  • ごく身近なありふれたものの名前を忘れてしまう

例えば「駅」「公園」「車」「ポスト」など、簡単なものの名前がわからなくなる

家族の方が最初に気づいた、認知症の初期症状を多い順に紹介します。

  1. 何度も言ったり聞いたりする 。(45.7%)
  2. ものの名前が出てこなくなる (34.3%)
  3. 置き忘れやしまい忘れが目立つ(28.6%)
  4. 時間や場所の感覚が不確かになった。 (22.9%)
  5. 病院からもらった薬の管理ができない。(14.3%)。
  6. 以前からあった興味は関心が失われた。    (14.3%)
  7. その他、ガス栓の締め忘れ、計算の間違いが多い、怒りっぽくなった など。

医者が診察室で気付く症状

  1. 薬を何度も飲み忘れる
  2. 振り向き現象 : 奥さんに付き添われて来た認知症のご主人に質問すると、直ぐに後に立っている奥さんの方を振り向いて確認する動作を意味する (自分の記憶の自信のなさをカバーして貰おうとする行為)
  3. 笑って誤魔化す
  4. 作り話をする
  5. 呆けの自覚 : 初期の段階では, 記憶力の低下を自覚し、自分は呆けたのではないかと感じる事が多い

家族の方が気づいた変化のうち多いものとは?

  1. ものの名前が出てこなくなった。
  2. 同じことを何度も言ったり、聞いたりする。
  3. 置き忘れや、しまい忘れが目立つ。
  4. 時間や日付が不確かになった。
  5. サイフを盗まれたと言って騒ぐ。
  6. 以前はあった興味や関心が失われた。
  7. テレビドラマの内容が理解出来なくなった。
  8. 性格が変わり、以前と違って「だらしなくなった」、「身だしなみに気をつかわなくなり、おしゃれをしなくなった」、「頑固になった」、「ささいなことで怒りっぽくなった」、「疑い深くなった」。
  9. 計算の間違いが多くなった。
  10. 病院からもらった薬の管理ができない。
  11. 水道の蛇口やガス栓の締め忘れ。
  12. 今まで出来ていたことが出来なくなった、片付けが出来なくなった。

改訂版「アルツハイマー病を疑う10の症状」
アメリカのアルツハイマー病協会はこのたび、改訂版「アルツハイマー病を疑う10の症状」を公表しました。

  1. 日常生活を混乱させるほど記憶が変化する
  2. 計画を立てたり問題を解決する能力が変化する
  3. 家庭、会社、レジャーで馴れたことを終わりまで出来にくくなる
  4. 時間や場所について混乱する
  5. 視覚的、空間的な関係を理解するのが難しい
  6. 話したり書いたりする言葉の問題が生じる
  7. 物の置き場所を間違えたり、来た順路を思い出せない
  8. 判断する力が低下したり難しくなる
  9. 仕事や社会活動から引きこもる
  10. 気分や性格が変わる

アルツハイマ病を疑う8つの症状

アメリカ・ワシントン大学ガルビン医師らは、アルツハイマー病を疑う症状を以下の8つに整理し、2つ以上の症状があるとアルツハイマー病が疑われるので、医療機関への受診を勧めています。

  1. 判断が難しくなる
  2. 趣味や活動に興味を失う
  3. 同じことを繰り返す
  4. 道具、電化製品、小物などの使い方を覚えにくくなる
  5. 正しい月、年が覚えられない
  6. 所得税、家計など金銭的に複雑なことができにくくなる
  7. 約束を思い出しにくくなる
  8. 日々の生活のなかで考えたり覚えたりすることが難しくなる

アルツハイマー病の症状の経過

一般的な経過は次のとおりです。多くの場合、物忘れ(記憶障害)から始まり、時間、場所、人の見当がつかなくなります(見当識障害)。物忘れは、病気の進行とともに「最近のことを忘れる」から「昔のことを忘れる」というように変化し、次第に過去の記憶や経験などを失っていきます。

「人や物の名前を忘れる等の記憶障害」→「日付や曜日が分からなくなる、お金の管理が出来ない、薬の管理が出来ない等日常の生活に支障が出てくる」→「自分がいる場所が分からなくなる、徘徊を始める、介護が必要になる」→「自分の妻や子供など人物が分からなくなる」→「寝たきりになる、施設介護が必要になる」と数年〜十数年かけて進行してゆきます。

昔のことよりも新しいことを忘れる

認知症初期に見られる特徴として、昔の記憶ははっきりしているのに、新しいことを忘れるという特徴があります。初期では数日中のことを忘れますが、やがて数分前の出来事も忘れるという状態になり、さっき聞いたことを3分もたたないうちに忘れてしまい、何回も同じことを繰り返して聞いたりします。しかし昔の記憶は問題ないことが少なくありません。具体的には、数日前に人と会ったこと,数時間前に電話でしゃべったことを忘れてしまう。あるいは、物をどこに置いたか忘れてしまって、一日中、ものを探しているといった状態になることもあります。

時間と場所がわからなくなる

認知症の症状として、時間と場所において自分が置かれている状況を正しく認識できなくなるという特徴があります。初期は時間の見当がつかなくなり、続いて曜日や月などの見当が次第につかなくなります。病気の進行とともに、次第に仕事や家事に影響が出てくる程度になってきます。

アルツハイマー病では病識がない

アルツハイマー病では、自分が病気であることを自覚できないと言う特徴がみられます。具体的には、病気のせいで、自分が「物忘れ」をしている、あるいは「置き忘れ」や「しまい忘れ」をしているということを自覚が出来ないことが多いのです。例えば、ひどい物忘れをしているのに、「自分は物忘れをしていない」と言い張ったり、自分で物を置き忘れたのに、置いたことを忘れて「誰かが隠した」、「誰かに盗まれた」などと騒ぐなどの被害妄想(ひがいもうそう)がしばしば見られます。

初期によく見られる症状

  • 短気になる。些細なことでもすぐに怒るようになる。
  • 同じことを何度も言ったり聞いたりする。
  • 置き忘れやしまい忘れが目立つ。
  • 目標に対してプランを立てたり、スケジュールを立てたりすることが出来なくなる。
  •  家事や仕事の段取りが上手く出来なくなるのが最初の徴候。例えば、お皿をうまく片づけられない、調理の手順を間違える、冷蔵庫の管理が出来なくなる(空っぽになったり、逆に、同じ物を重複して買ってきたり)、着物をうまくたためない、字が下手になった、捜し物が多くなる、ガス栓などの閉め忘れ、駅で切符が買えない、いつもの道を間違える、
  • 飲み薬の管理が出来ない(決められたとおり飲めない)、
  • 身だしなみがだらしなくなり、化粧やおしゃれをしなくなった、風呂に入らなくても平気。
  • 相手の話を聞いている時に、同時に自分が言うことを考えることが出来なくなる。 他人との会話が上手く行かない。
  • 好きな事でも関心がなくなる、日課をしなくなる。 元気が無く憂鬱な感じになる。あちこち身体の不調を訴える。料理を作るのが面倒になったり、品数が減る。
  • お金や物品を盗まれたと言うようになった。
  • 以前は熱中したことに興味や関心を示さなくなった。

中期になると、さらに進行して記憶障害がいっそう顕著になり、最近のことはほとんど覚えられなくなって、昔の記憶さえもかなりあやふやになります。簡単な日常会話はできますが、お金の計算もできなくなり、買い物もほとんどできなくなります。また、日常生活におけるありふれた行為、例えば、電話する、ガスコンロに火をつけるといったことができなくなります。今日は何月何日で、今は、何時頃かといったことが分からなくなります。また、ひとりで外出すると道に迷って帰ってこれなくなったりします。

アルツハイマー病の原因

アルツハイマー病は、脳の神経細胞の減少、脳の萎縮、脳への老人斑・神経原線維変化の出現を特徴とする病気です。アルツハイマー病の特徴として、まず、脳の側頭葉と呼ばれる部分にある海馬の神経細胞が減るところからはじまります。この海馬は短期記憶(近い記憶)をつかさどる場所です。その部分が障害を受けるので、病気の初期段階のうちは「今さっきの記憶」が思い出せなくなります。

アルツハイマー病ででは、脳の中にβアミロイドと呼ばれるタンパク質がたまり出すことが原因の一つとされていて、このβアミロイドが脳全体に蓄積することで正常な神経細胞を変化・脱落させて、脳の働きを低下させ、脳萎縮を進行させると言われています。

アルツハイマー病の患者さんの脳を顕微鏡で調べてみると、茶色いシミのようなものがたくさん見つかります。これは「β(ベータ)アミロイドというタンパク」が溜まったものです。βタンパクは、脳の神経細胞が作るいわば「ゴミ」のようなもので、現在アルツハイマー病の主な原因と考えられています。通常、βタンパクは脳の中にある酵素などが掃除してくれていますが、ある要因でこの酵素が減ってしまうと、脳の中にどんどん溜まってしまうのです。アルツハイマー病にかかると、蓄積したβタンパクによって脳がダメージを受けます。ただし、脳には、βタンパクによる影響を受けやすい場所と、受けにくい場所があると考えられています。まず影響を受けるのは、記憶を司る海馬(かいば)の周辺です。そのため、アルツハイマー病の最初の症状として、まず記憶障害が起きることが多いのです。

βタンパクがたまり始める時期には個人差があり、40代で20人に1人程度、50代で20人に3人程度、70代で半分程度の人にたまり始めると考えられています。βタンパクが脳にたまり始めてから症状が出るまで、およそ20年ぐらいかかると考えられています。アルツハイマー病では比較的早期から側頭葉を中心にこの沈着が認められ、その程度も強いのが普通です。そして、次第に脳の後半部に高度の萎縮がみられるようになります。こうした変化とともに、正常な神経細胞が徐々に脱落し、認知症障害が進行してゆきます。

アルツハイマー病全体の10%を占める「家族性アルツハイマー病」ではいくつかの遺伝子異常が判明し、同時にアミロイドたんぱくの沈着や神経細胞脱落のメカニズムも次第に明らかになってきました。すなわち家族性のアルツハイマー病には、いろいろな遺伝子が関与しているといわれており、第1染色体、第14染色体,第19染色体、あるいは第21染色体上の遺伝子が原因遺伝子として報告されています。また、非家族性のアルツハイマー病でApoE(アポ・イー)という物質に関する遺伝子異常が多いことがわかっています。

アルツハイマー病の危険因子と予防の手がかり

アルツハイマー病は、高齢になればなるほど増え、60歳を超えると多くなり、85歳以上では一段と増えます。
認知症は男性より女性に多く、女性は男性にくらべ1.5倍から2倍かかりやすいという特徴があります。これは、女性の方が長生きする者が多く、高齢の者が多いからではなく、たとえ同じ年齢であっても男性より女性の発生率の方があきらかに高いのです。この原因としては、閉経後の女性ホルモンの減少との関連が考えられています。一方、エストロゲン補充療法をしているものでは、アルツハイマー病にかかるものが少ないと言う事実も判明しています。
アルツハイマー病の危険因子として、ある研究では

  • 新聞購読、読書がまれ
  • パートナーを要するレジャーが乏しい
  • 散歩しない
  • 意識を失うほどの頭部外傷
  • 歯が半分以上ない

また、別の研究では、

  • 意識喪失を伴う頭部外傷を負ったことがある
  • 長く続けた趣味がない
  • 40歳以降、散歩を含めあまり運動をしていない
  • 休日に運動をせず、家で寝ていることが多い
  • 総入れ歯、歯がない

現在知られているアルツハイマー病の危険因子には、次のようなものがあります。
アポリポ蛋白質E4遺伝子を有する者、高脂血症(脂質異常症、高コレステロール血症)、高血圧、糖尿病、肥満、喫煙、頭部外傷の既往。

家族性アルツハイマー病(10%)などの遺伝性の家系でない方でも、持っている遺伝子のタイプが発症のしやすさに関係していることが知られています。それにはアポリポ蛋白E(ApoE)という遺伝子の存在が判明しています。ヒトのApoEにはε2、ε3、ε4の3種類があります。多くの正常人はε3なのですが、ε4のタイプのApoE遺伝子を持っている人はアルツハイマー病になる危険度が高くなることが知られています。ちろん、ε4を持っていれば必ずアルツハイマー病になるというわけではありません。一方、ε2を持っている人はアルツハイマー病になりにくいことがわかっています。

そして、このe4の遺伝子を1個持っている人は、アルツハイマー病になる危険率が、持っていない人の2〜3倍となり、2個持っている人は、その危険率が10〜30倍となり、さらに3個持っている人の場合では、その90%以上の方が80歳までにアルツハイマー病になることが分かっています。一方、この遺伝子を持っていなくても認知症にかかる人はいますし、逆に、この遺伝子を持っているけれども認知症にかからない人もいるのです。すなわち、アルツハイマー病になるにあたっては、それ以外にも、いくつかの複数の危険因子が関与していると言われ、あらかじめ、そのような危険因子に対する対策をたてておけば、遺伝的にアルツハイマー病にかかりやすい人でも、それにかからなくてすむ可能性があります。

一方、そのような遺伝子を持っていない人でも、普段から危険因子に対する対策を怠っていれば、アルツハイマー病にかかる可能性が出てくるのです。

つまりアルツハイマー病(認知症)は、遺伝的な素因があったとしても、生活習慣、つまり、食生活の改善や運動習慣の改善により、発症のリスクを軽減したり、発病を遅らせることが可能になると言われています。

頭をひどく打つとアルツハイマー病にかかりやすくなる(頭部外傷)

若い頃にボクシングの選手であった者にアルツハイマー病が多く、これはボクサー脳症としてよく知られています。

統計学的な研究から頭の外傷(特に意識を失うような頭部外傷)がアルツハイマー病の危険因子であることが分かっていて、病理学的研究でも、かってボクサーだった人の脳にアルツハイマー病の特徴と言われる老人斑が多いことが判明しているのです。そこで認知症にかからないためには、頭を打たないように注意しなければならないでしょう。

アルミニウムはアルツハイマー病の原因ではないかと疑われている

アルミニウムは地球で最も多い金属で、多少なりとも、どこの川の水にも含まれているのですが、アルミニウム濃度の濃い川の流域では、神経の病気が多いことが古くから指摘されていました。水中に溶けたアルミニウムは体内に吸収されやすい形となり、脳に達しやすく毒性も強いと言われています。そして飲料水のアルミニウム含量の多い地域にアルツハイマー病が多いと言う疫学的調査結果があり、アルミニウムと認知症との関係が疑われているのですが、これには異論もあります。

一方、ネズミの実験では、アルミニウムが脳に貯まると認知症になることが分かっています。また、以前に慢性腎不全で透析を受けていた患者さんに認知症が多発し問題になったことがありますが、これは透析脳症として知られています。その原因は透析液の中に含まれていたアルミニウムで、このアルミニウムが体に貯まるためであることが、後に分かりました。この事実からアルミニウムと認知症との関連が疑われるきっかけになったのです。最近では、透析に際してアルミニウムの排泄を促す薬が使用されるようになり、その心配はなくなりましたが、いずれにしてもアルミニウムが認知症を引き起こすことには疑う余地がありません。但し、アルミ鍋を用いての調理物、あるいはアルミ缶中の飲料水やビールなどに含まれるアルミニウムの濃度は認知症の症状を引き起こすほど濃い訳ではないことから、これらのアルミニウムが実際にアルツハイマー病の原因となっているのかどうかについては、否定的な意見もあります。

なお、アメリカの大学病院などで、アルツハイマー病の患者にアルミニウムを減らす薬を飲んでもらう研究も実際に行われています。

高血圧症、脂質異常症、糖尿病、メタボリックシンドローム、あるいは脳梗塞の既往などを持つ者がアルツハイマー病発病の高リスク群であることが分かっている。

最近の研究では、1.動脈硬化が起こると脳への血流が減少し、脳虚血すなわち脳の酸素欠乏を生じて、脳のアルツハイマー病変化を促進する。2.循環器(心臓など)の機能低下は認知症と関係があることが分かってきました。

そこで、普段から、動脈硬化の促進因子である高血圧、高脂血症、糖尿病などに対する対策をたてておくことが、結局、認知症の予防にもつながるのです。

  • 糖尿病の人は健常者の2倍アルツハイマー病を発症しやすいとの調査結果がある 。
  •  モデルマウスの実験結果では、高脂肪食にすると、脳の老人班の数は、約2倍に増加する。また、カロリー制限すると(通常食の6割のカロリー)、脳の老人班の数は、1/3に低下する。
  • 血液中の総コレステロール値(TC値)が高かったり(250mg/dl以上)、LDLコレステロール値(悪玉コレステロール)が高いと、アルツハイマー病を発症し易いと言う研究結果もある。
  • 無症候性脳梗塞がある人はアルツハイマーを起こしやすくなるとの研究もあり、脳梗塞を予防することがアルツハイマー病の予防防に効果があると考えられる。
  • 頭を使わない人に多い。
  • 偏食の人はなりやすい。肉が好きで、特に緑黄色野菜(ブロッコリーや人参)や魚の嫌いな人は統計的にアルツハイマー病が多い。アルツハイマー病(認知症)は、生活習慣病であり、遺伝的な素因があっても、食生活の改善(動物性脂肪の摂取を控える、野菜や果物などから抗酸化物質を摂取することなど)により、発症のリスクを軽減することが可能と言われる。
  • 喫煙はアルツハイマーになる危険度を2倍にする。
  •  運動をしない人は、運動する人に比して、アルツハイマー病になるリスクが、2倍高い。
  • ドイツでの研究によれば、運動をしない人がアルツハイマーになる確率を1とすれば、週2日、1回20分以上の有酸素運動をする人のリスクは0.38に減るという。
  • アルミニウムの恒常的な摂取になるような事は控えた方が良い。
  • 魚をほとんど食べない人。
  • 高脂肪食を過剰に食べる人
  • 町内の人とは挨拶以外の会話がない、同窓会には出ない、人の好き嫌いがはっきりしているなど、社交性に欠ける人は認知症にかかりやすいので注意が必要。
  •  カロリンスカ大学とストックホルム老年学研究センターのLaura Fratiglioni教授と同大学のChengxuan Qiu博士は「疫学研究で蓄積されたこれまでのエビデンスは,認知症の病因と発症にライフスタイルと心血管系危険因子が一定の役割を果たしているとの考えを支持している。

アルツハイマー病の予防

「生活習慣病にならない食生活」

高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病にならないように注意することがアルツハイマー病の予防につながる。
アルツハイマー病は食生活や運動などと関係しているらしいという調査結果が次々と報告されている。人種的にアルツハイマー病になりやすい遺伝的素因を多く持つアフリカ出身者を対象に、米国で行われた研究では、アフリカに住む人と米国在住者の発症率を比べたところ、米国在住者の方が2.5倍も高いことが判明し、発病には環境因子が関係していることが示された。 
フィンランドで、平均21年間、住民を追跡した調査で、中年期に高血圧やコレステロール血症があると、老年期にアルツハイマー病になりやすいという結果が分かった。 
ヨーロッパで1449人を20年に渡って追跡した研究によると、高血圧、高コレステロール、肥満などがあるとアルツハイマー病を中心とした認知症の危険度が増すことが分かった。
米国の研究で45才前後の人で内臓脂肪が多い人(ウエスト85cm以上)を追跡調査した結果、30年後には90%が認知症になったとの報告がある。
老化した脳の活性化に野菜が有用
アルツハイマー病(認知症)の予防には、食生活の改善(緑黄色野菜や魚を多く摂取し、腹八分目とし、カロリーは抑えめにする)ことが大切。
葉酸を豊富に含む葉菜や柑橘類を多く食べていた高齢男性は、加齢に伴う脳機能および記憶力の衰えが少ないことが分かった。葉酸により脳の老化が遅くなる可能性が示唆された。例えば、葉酸を多く摂取していた男性では、食事による葉酸摂取量が少ない男性に比べて、言語能力の低下が少なかった。 また、さまざまな形および図柄を模写する能力(空間的模写として知られる能力)の低下が防止されていた。葉酸はビタミンB群の一種で、ブロッコリーやホウレンソウなどの野菜や柑橘類に含まれる。葉酸はヒヨコマメ、インゲンマメ、イチゴ、グリーンピース、ロメインレタスにも多く含まれる。 葉酸を豊富に含む野菜および果物を摂取した男性では、加齢に伴う記憶力および思考力の低下が抑制されていると考えられた。
Kameプロジェクトが、1992〜1994年に、非認知症の人を登録し、2001年まで、2年毎に、認知機能を評価した結果では、週3回以上、野菜又は果物ジュースを飲んだ人たちは、アルツハイマー病の発症リスクが、76%低減する。
アルツハイマー病の発症リスク(ハザード比)は、週1回未満したジュースを飲まなかった人たちに比し、週3回以上ジュースを飲んだ人たちは0.24、週1〜2回ジュースを飲んだ人たちは0.84だった。ジュースを飲んだ人たちでも、特に、アポリポ蛋白質Eε4アレル保因者や、身体活動度が低い人たちで、ジュース飲用によるアルツハイマー病発症リスク低減効果が現れた。

ジュース飲用によるアルツハイマー病発症リスク低減効果は、ジュースに含まれる抗酸化物質ポリフェノールが、神経保護作用を現す為と考えられている。

アルツハイマー病、魚や野菜の摂取が重要

オランダのロッテルダムで約2万人を2年半追跡し、食事とアルツハイマー病の関係を見た調査では、魚の摂取が発症の抑制因子になるとの結果が出た。  
魚(サバ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、マグロ等)を週に1回以上食べる人は、ほとんど食べない人に比べて、アルツハイマー病の発症リスクが60%減少するとの研究報告がある。魚の油に含まれるDHAドコサヘキサエン酸)が効果があるらしい。肉より魚(特にサバ、鰯やカツオなどの青魚や脂身の少ない魚)が良い。
最近の調査によると、認知症の患者さんは、魚と緑色野菜が嫌いで、肉好きが多い傾向があると分かった(自治医科大学神経内科の調査)。つまりアルツハイマー病の患者さんでは、魚の摂取量が少なく、肉類の摂取が多い。すなわち認知症の予防には、食事中の肉を少なくし、魚と野菜を増やすと良い。

魚を食べている人はアルツハイマー病にかかる率が低い。イギリスのオックスフオード大学のクロフォード教授が、日本人の子供が欧米人の子供に比べ知能が高い理由は、魚を多く食べてきたからであると発表し、世界に一大センセーションを起した。

魚の脂は、脳を活性化する作用があるが、一方、肉の脂をたくさんとると、脳の血流が悪くなり、神経細胞の細胞膜などにも障害が起こりやすくなるものと考えられる。

どうして魚が頭や体にいいのか?

それは魚の脂にはDHAやEPAなどの体に良い成分が含まれているからと考えられている。

平山による27万人の調査では魚を食べている人と食べていない人では、前者の方が圧倒的にアルツハイマー病になる確率が低かった。アルツハイマー病の人の脳にはDHAが通常の半分しかなかったと言う報告もある。

スエーデンのカロリンスカ研究所によると、アルツハイマー病発病後亡くなった人の海馬中のDHAは、そうでなかった人の半分以下に減っていたと言う。

EPAには:1.コレステロールや中性脂肪を減らす作用、2.血液が凝固するのを防ぎ、血栓予防効果がある。3.背中の青い魚に多い食事にイワシ、さば、アジ、サンマ、ニシン、タラ、などのイコサペント酸を多く含む魚を取り入れる。

DAH(ドコサヘキサエン酸)には:1.学習記憶能力や情報伝達能力などの脳の機能におおいに関係し、認知症を予防する効果がある。2.コレステロールや中性脂肪を下げ、動脈硬化を予防する作用がある。

魚の脂に含まれるEPAやDHAには、コレステロールを減らしたり、血圧を下げたり、あるいは動脈硬化を予防する働きがあることが知られている。またEPAには、血液をサラサラにし、血栓ができるのを防ぐ作用がある。

血中リン脂質にEPAやDHAなどの不飽和脂肪酸の多い地域ほど心筋梗塞の発生率が低い。

DHAの効果:アルツハイマー病の患者さん5名に毎日0,7から1,4gのDHAをとってもらった実験では5名全員に症状の改善が見られた。

DHAは1日に0,5から1グラムとると脳の若さを保てる。マグロのトロに圧倒的に多く、刺身2切れでOK。ブリなら1切れ、さばなら半身。うなぎ、アジ、サンマなら1尾。イワシなら2尾。EPA、DAHともに含む魚には、イワシ、カツオ、サバ、サンマ、アジ、マグロ、サケ、ウナギなどがある。

コレステロール低下剤に認知症予防効果

血中のコレステロール値を下げ、心臓病や脳卒中を防ぐのに使われる薬が、アルツハイマー病の予防にも大きな効果を発揮するという説を、米国の研究者らが立証しつつある。すなわちスタチン系コレステロール低下剤を服用することにより、アルツハイマー病にかかるリスクが7割近く低くなるとの報告もある。

これまでにも、アルツハイマー病の原因物質とされるβアミロイド(ベータ・アミロイド)の沈着と血液中のコレステロール値との間に相関関係があることは指摘されてきた。

そこで、抗コレステロール薬であるスタチン系薬剤を服用している人ではアルツハイマー病の発症頻度が下がることが期待され、このスタチン系コレステロール低下剤は副作用も少なく、安全な薬とされていることから、アルツハイマー病予防への応用に期待がかかっているのです。

アルツハイマー病の予防に抗酸化物質が有効

アルツハイマー病は、食生活の改善(動物性脂肪の摂取を控える、野菜や果物などから抗酸化物質を含む緑黄色野菜、ゴマ、緑茶を摂取するなどにより、予防可能と思われる。

脳内のビタミンCビタミンEは脳が酸化(老化)するのを防いでいます。これらの抗酸化ビタミンが分解されるのを長もちさせるのが、赤ワインの中のアンソシアニン、緑茶に含まれるカテキンなのです。またDHA(魚などに多く含まれる)は、老人斑の形成を、40%減少させるという結果が分かっています。

アメリカでアルツハイマー病の患者さんを2つのグループに分け、ビタミンEを投与した群と投与していない群とに分け調査したところ、投与した群では症状の進行が抑えられ、投与していない群では症状が進行したという結果が出た。これはビタミンEが持つ抗酸化作用によると考えられている。

日常生活を営むに際して、体内で発生した活性酸素(フリーラジカル)は、そのままほうっておくと細胞を傷つけることになる。しかし通常、それを除去する酵素が働いていて、その害を防いでいるのである。その除去酵素を含めて、活性酸素の害を防ぐ物質をスカベンジャーと言い、その作用を抗酸化作用と言う。つまり抗酸化作用とは、活性酸素の害を防ぐ作用である。ところが体内で活性酸素の量が増えたり、あるいはスカベンジャーの量が減ったりするような事態を生じると、発生した活性酸素を除去しきれなくなって、その結果、活性酸素の害を受けることになる。

年をとると、どうしてもスカベンジャーが減ってくるので、活性酸素の害によって細胞がダメージを受けることになり、そのせいで成人病になったり、あるいは老化が早まったりすると言われる。ところで脳は体内で、最も多くの酸素を消費している組織であって、それだけ他の臓器にくらべて多くの活性酸素が発生しているところである。ところが年齢とともにスカベンジャーの量が減ってきたりすると、脳の細胞は増えた活性酸素によりどんどん酸化され、働きが悪くなる。このことが脳の老化や、アルツハイマー病と関係があると考えられている。

そこでアルツハイマー病の予防には、スカベンジャーを含む食品を積極的にとることが大切である。それにはビタミンEのほかに、ビタミンC、カロチノイド(カロチン、リコピン)、あるいはフラボノイド(カテキン)などがある。ところでビタミンEを多く含む食品にはアーモンド、ヒマワリ油、アボガド、ウナギ、ピーナッツ、小麦胚芽、コーン油、シシャモ、サンマ、サバなどをあげることが出来る。

認知症の予防には緑茶が有効

最近の調査によると、健康なお年寄りは日本茶(緑茶)を1日5杯以上飲んでいることが分かった。また別の調査によると、アルツハイマー病の患者さんたちは日本茶をほとんど飲んでいないのに対し、健康なお年寄りは好んで飲んでいるとの報告もある。日本茶に含まれるフラボノイド(カテキン)には、抗酸化作用があり、この作用が関係しているものと考えられる。緑茶に含まれるカテキンは、老人斑の形成を、50%減少させるとの結果も判明している。

赤ワインに含まれるポリフエノールがアルツハイマー病に有効
フランスでの疫学調査の結果、定期的に赤ワインを飲んでいる人はアルツハイマー病の危険性が減ると言うことが分かりました。また金沢大、山田教授らが、赤ワインに含まれるポリフエノールがアルツハイマー病の原因とされるタンパク質、βアミロイドを分解することを実験で確認したと報告しています。そして、アルツハイマー病の予防治療に応用できる可能性があると話しています。ポリフェノールの多くは、抗酸化ビタミンより強力に、過酸化水素から神経細胞を保護する(アミロイドβ蛋白の形成を予防する)作用があるとのことです。赤ワインは認知症の予防に効果
赤ワインを毎日2-3杯飲むと海馬の働きをよくして認知症予防、改善効果があることを名古屋市立大大学院医学研究科の岡嶋研二教授と原田直明准教授らのグループが突き止めた。赤ワインの中のポリフェノールの一種レスベラトロールの効果によるもので全てのタイプの認知症に効果が期待できるという。赤ワイン2〜3杯のレスベラトロール含有量は約5mgと言われる。

イチョウ葉エキス

イチョウの葉にはフラボン、カテキンなど20種類以上の成分が含まれている。なかでもイチョウの葉に特有のギンコライドは、活性酸素の発生を抑え、脳虚血を防ぎ、神経細胞の死滅を防ぐ作用がある。認知症状を改善するとの臨床成績がドイツで多数得られている。

修正可能な7つの危険因子の是正で大きな予防効果

カリフォルニア大学サンフランシスコ校のDeborah E. Barnes助教授とKristine Yaffe教授らは「アルツハイマー病の発病に関連する危険因子には,修正可能な7つ(喫煙,低身体活動,低教育水準,中年期高血圧,糖尿病,中年期肥満,うつ)が含まれ,これらが関与しているとみられる症例は最大で世界の症例の半数に上る」とする分析結果を発表した。

Barnes助教授らは今回,心血管系の危険因子,心理的因子,健康的な行動などのエビデンスについて分析した。その結果,修正可能な危険因子として,喫煙,低身体活動,低教育水準,中年期高血圧,糖尿病,中年期肥満,うつの7因子を同定した。そして、これら7つの因子が関与しているとみられる症例は,世界と米国でそれぞれ最大約50%(それぞれ1,720万人,290万人)に上ることが示唆された。 

米国では運動不足が最大の危険因子

Barnes助教授は「本当に問題なのは,母集団における各危険因子保有者の割合である。米国では,約3分の1がほとんど座ったままの生活を送っていることから,アルツハイマー病の症例の多くが運動不足に関係している可能性がある」と指摘。また「世界では,読み書きのできない人や小学校以上の教育を受けていない人が非常に多く,教育水準の低さがより重要な役割を果たしていた。喫煙者も残念なことに依然として多いため,喫煙が影響する割合も多かった」とコメントしている。

定期的な運動が認知症の発症を遅らせる可能性

定期的な運動が認知症の発症を遅らせるという結果が報告された。認知症の発症率は、週3回以上運動を行なった者では13.0/1000人・年であったのに対し、運動が週3回未満の被験者では19.7/1000人・年であった。「適度な運動によって認知症のリスクが約40%低下することがわかった」。
カロリンスカ研究所のMiia Kivipelto博士らは,新たな試験により,中年期に運動をした人はしない人よりもアルツハイマー病(AD)その他の認知症発症率がきわめて低いことを見出し,運動をすれば,加齢による記憶障害の発症を遅らせるようだ」と述べている。

Kivipelto博士らは65歳以上の東フィンランドに住む1,449例の運動習慣を平均21年間フォローアップしたところ,中年期に週2回以上運動を行った被験者の認知症発症率が50%低く,アルツハイマー病の発症率が60%低かった。

「中年期の余暇を利用した運動は,その後の余生における認知症や認知症発病リスク低下と関連する」と結論している。「定期的な運動は,特に遺伝的に認知症に罹患しやすい人でそのリスクを低下させたり発症を遅らせたりする可能性がある。
体を動かすこと(運動)は認知症の予防に効果がある。1日30分程度の散歩で良いから毎日やることが大切。

頭を使う

脳は使えば使うほど発達すると言われる。新しいことに意欲を持って取り組めば、脳は発達し、活性化する。脳は病気や老化で細胞が死んで減少してしまって、物忘れがおきるようになっても、普段の生活の中で脳に刺激を与え続けて、脳を活性化すると、生き残った脳細胞が機能を回復する事が出来ると言われている。

  1. その日の行動を思い出しながら日記を付ける。(字を書く事は脳の老化を遅らせる)
  2. 簡単な計算をする。
  3. 新聞や本を声を出して読む。

米国アルバート・アインシュタイン大学医学部の研究(New England Journal of Medichine June 19,2003掲載)によれば、痴呆を予防するには、@週に数回トランプやチェス(将棋・囲碁)などのゲームをする(認知症発生率0.26倍)、A楽器演奏をする(0.31倍)、B小説や新聞を読む(0.65倍)が効果的であるという。

社会生活

家に閉じこもらないで出来るだけ外出する。新しい場所に行くのは脳の刺激になって良い。歩くことが脳の活性化につながり予防効果になる。

料理や園芸など趣味を持つ。旅行に行く、友人と遊ぶ、手芸やガーデニング、絵を書く、音楽を聞く、歌を唄う、踊る、碁や将棋をする、短歌や俳句を作る等は右脳を使うので特に薦められる。

多くの友人と話し合う。特に、初対面の人と会って話すのは刺激になる。おしゃれをする。家に閉じこもりテレビばかりを見ているのは危ない。友達の多い人ほどぼけにくいと言われる。

カレースパイス成分のクルクミンがアルツハイマー痴呆を予防する

カレーの成分ウコンに含まれる「クルクミン」がアルツハイマー病の原因物質の生成を防ぐ効果があると言われる。curcuminウコンはインドでは食品,生薬として豊富に取り入れられている。カレーを常食するインド人は米国人に比べアルツハイマー病の発症率が1/4と言われる。レトルトカレーでも効果がある。(金沢大神経内科教授 山田 正仁氏等の研究)

炎症を抑える薬に認知症予防効果

関節リウマチ患者(RA患者)には、アルツハイマー病が少ない。NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は、アミロイドとなって脳に沈着するアミロイドβ蛋白Aβ42の産性を特異的に抑制する効果がある。

リウマチの治療等に用いられる非ステロイド系解熱消炎剤(イブプロフェン、アスピリン、インドメタシン等)を2年以上毎日服用するとアルツハイマー病の発病率が最大で80%も減少することがドイツの大規模臨床試験で判明した。アルツハイマー病の原因と言われるβアミロイドが脳内で生成するのを抑える結果であると推測されている。

炎症というのは、体内で熱、腫れ、痛み、発赤(赤くなること)の4つの症状を特徴とする病態で、その中身は白血球が集まって外敵(細菌や毒素、場合によっては自分の体の細胞自体が敵になることもある)と戦っている状態であり、例えば肺炎とか関節炎とかがそれにあたります。アルツハイマー病の脳の中では、この炎症が起こり、そのため脳細胞が死滅してゆくのだろうと考えられているのです。また、現在では、アルツハイマー病の脳の中で炎症が起こっていることは間違いないと考えられています。

最初はアメリカで、次いでカナダで、リウマチを患い、そのため炎症を抑える薬(いわゆる鎮痛解熱剤)を飲んでいる方にアルツハイマー病が少ないことが報告されました。また、ジョンズホプキンス大学の調査では、2年以上、イブプロフエンを服用した人は、そうでない人にくらべ、アルツハイマー病に60%以上かかりにくいことも分りました。

つまり、炎症を治す薬を長い間飲んでいる人はアルツハイマー病に罹りにくいと言う事実から、炎症を抑える薬がアルツハイマーの発病を予防する可能性があり、これはアルツハイマー病の原因であるβアミロイドが脳内で生成されるのを抑えるためであろうと考えられているのです。そして、アメリカなどで最近アルツハイマー病の抗炎症剤による治療が開始され、良い結果が得られつつあります。
ただし、これらの薬剤を長期に服用すると、副作用として胃潰瘍などの胃腸障害を引き起こす可能性があり、今後、この点が解決されなければならないようです。

アルツハイマー病を3倍、6倍なりにくくする予防術

3倍なりにくくする予防法は「有酸素運動」すなわち軽いジョギングやウオーキングなど。汗が出る程度の運動を1日20分、週2回。
6倍なりにくくする予防法は「生活習慣病にならない食生活」で「高血圧」「糖尿病」「脂質異常症」を治せばアルツハイマーも逃げてゆくとのこと。

軽いジョギングで脳が活性化すると認知症の予防になる、ウオーキングよりゆっくり走るスロージョギングがよいと、筑波大運動生理学征矢教授、福岡大学運動生理学田中教授。スロージョギングは時速4-5kmのニコニコペースで週合計2-3時間程度。カロリー消費はウオーキングの2倍で1分1キロカロリーになる。

認知症予防の3原則

「有酸素運動」「話し相手」「生活習慣病にならない食生活」以上を守っていれば、発病するまでの期間をぐっと遅らせることができるらしいことがわかってきた。

「有酸素運動をする」

アメリカで3年前に行われた実験で、「運動しやすい環境に置かれたマウスは、βタンパクがたまりにくい」という結果が示されました。運動によって、脳でβタンパクを分解する酵素が活性化したと考えられています。「運動」がアルツハイマー病を予防する効果があることは、大規模な調査でも明らかにされています。たとえば、ヨーロッパで3年前に行われた調査では、1449人を20年にわたって追跡した結果、適度な運動をしている人は、していない人よりも、アルツハイマー病の危険度がおよそ3分の1になっていることが明らかになりました。なお、予防効果が見られたのは、1回20分以上の、ちょっと汗ばむ程度の運動(有酸素運動)を週に2回以上行っている人たちでした。

「話し相手を持つ」

専門家によると、会話が減るとアルツハイマー病が進行してしまうことがあると言います。会話をしているときの脳を調べると、とても活性化していることがわかりました。8年前にヨーロッパで発表された研究によると、1203人を3年間追跡した結果、家族や友達が多く社会的接触が多い人に比べ、乏しい人は認知症の発症率がおよそ8倍でした。その理由として、会話をすることによって脳が活性化し、アルツハイマー病になるのを抑える効果があったのではないかと考えられています。

アルツハイマー病予防の7つの方法

アメリカ国立老化研究所は、毎日の生活に活かせるアルツハイマー病の予防として7つの方法を勧めています。

  • 定期的に運動する
  • 果物や野菜の多い物を食べる
  • 社会的、知的に刺激になる活動をする
  • 糖尿病(?型)の人はよく治療をする
  • 高血圧の人は適切な血圧に下げ
  • コレステロールが高い人は適切に下げる
  • 健康的な体重を維持する

アルツハイマー病の治療に使われる薬

認知症の症状には中核症状(記憶障害、見当識障害、判断力の障害)と周辺症状(徘徊、暴言、暴力行為、幻覚、妄想)との2つがあります。周辺症状のことをBPSDと言います。まず、この中核症状に対しての薬について説明しましょう。
2011年10月現在、日本で承認されているアルツハイマー病の治療薬には4つの薬があります。このうち「アリセプト」は、平成23年春までは日本で認可されている唯一の抗認知症薬でした。その後、にコリンエステラーゼ阻害薬の「ガランタミン」、「リバスチグミン(貼り薬)」と、NMDA受容体拮抗薬の「メマンチン」が厚生労働省の承認を受け発売されたのです。

アリセプト錠(ドネペジル塩酸塩)3mg、5mg、10mg

アルツハイマー病を根本から治療するのではなく、症状を改善したり、進行を遅らせる作用を持つ薬ですが、介護者の負担を軽減する意味で、大切な薬といえます。平成23年春までは日本で認可されている唯一の抗認知症薬でした。

アルツハイマー病では、記憶を担当する神経伝達物質であるアセチルコリンを分泌する神経系が選択的に冒されます。つまり、アセチルコリンが減ってくるために、物忘れなどの症状が出てくると考えられています。すなわちアルツハイマー病では、脳内のアセチルコリン系の活性が低下しますが、この薬はアセチルコリンの分解を阻害する作用(コリンエステラーゼ阻害薬)があります。

つまりコリンエステラーゼ阻害薬は神経終末のシナプス間隙でアセチルコリンを分解する酵素の働きを抑えることにより、アセチルコリンの分解を遅らせ、アセチルコリンの機能を延長させる働きがあるのです。そしてアセチルコリンを増やすことによって、情報の伝達がスムーズに行われるようになり、記憶、学習機能を改善させる効果があります。このアリセプトは認知症の進行を遅らせる効果があり、早期であるほど効果は大きく、なかには症状が劇的に改善する例もあります。軽度の段階で薬物療法を開始した場合、進行を2〜3年、場合によっては4〜5年遅らせることが可能と言われます。ただし、全員に効果があるわけではありませんが、一度、試みてみる価値が十分にある薬剤です。なお多くはありませんが、副作用には、消化器系の症状、すなわち吐き気や下痢、不眠、そして徐脈などがあります。

メマリー錠(メマンチン塩酸塩)5mg10mg20mg

メマリーはもともとパーキンソン病の薬として海外で使われていたものですが、同時に欧米では中等度から重症のアルツハイマー病の薬として使われていました。このメマリーはアリセプト(アセチルコリンエステラーゼ阻害薬)とは全く異なる作用機序を持つ薬で、脳内の主要な興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸に対して拮抗作用があるため、グルタミン酸の受容体(NMDA受容体)にメマンチンが結合すると、グルタミン酸の興奮毒性を阻止し、神経細胞の障害や細胞死を防ぐというもので、NMDA受容体拮抗薬と呼ばれます。
このメマンチンの適応は、中等度から高度のアルツハイマー病患者となっており、アリセプトとの併用も出来ます。現在、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬以外でアルツハイマー病に適応を有している唯一の薬剤であり、米国ではアセチルコリンエステラーゼ阻害薬との併用が標準的なアルツハイマー病治療法とされているとのことです。

レミニール錠(ガランタミン臭化水素酸塩)4mg8mg12mg

レ二ミール(ガランタミン)は、アリセプト(ドネペジル)と同様に、アセチルコリンエステラーゼを阻害し、脳内で減少しているアセチルコリンの濃度を高める薬です。ただし、アリセプトにはない作用があり、すなわちニコチン受容体に結合し、前膜ではアセチルコリンの放出を増強、後膜では受容体の感受性を高める作用があり、シグナルの伝達が増強されるというもので、それがニコチニックAPL作用と呼ばれるものです。このガランタミンの適応は軽度および中等度のアルツハイマー病です。2つの作用を持つためか、海外では、2年間の投与比較研究で他のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬よりも進行抑制効果が持続したというデータもあるとのことです。なおガランタミンは1日2回服用ですが、アリセプト、エクセロンパッチ、メマリーは1日1回服用(エクセロンは貼付)となっています。

エクセロンパッチ(リバスチグミン)

リバスチグミンは、飲み薬ではなく、唯一の貼付剤で、世界初の経皮吸収型製剤(パッチ剤)です。
吐き気や嘔吐などの消化器系の副作用が、貼付剤ではより少ないとされています。リバスチグミンには、アセチルコリンを分解するもう一つの酵素であるブチリルコリンエステラーゼと、アセチルコリンエステラーゼの双方を阻害する作用があります。また、飲み薬の場合、飲むのをイヤがる方でもエクセロンパッチは、貼れば良いだけですし、飲んだのか、飲まなかったのかどうかが分からないという場合もありましたが、パッチ剤であることから、介護者が貼ってあるのを目で見て確認できるので、コンプライアンスが高まる利点があると言われています。

周辺症状(BPSD)に使われる薬

抑肝散(よくかんさん)

元来は疳の虫に効く小児向けの漢方薬ですが、最近の研究から、進行したアルツハイマー病で起こる幻視・妄想や、不安や抑うつ、徘徊・暴力などの抑制にも効果があることがわかってきました。

認知症の症状には、物忘れなどの「中核症状」のほかに、「周辺症状」があります。周辺症状とは、お金を取られたと思い込む妄想や、あちこち歩き回って帰れなくなる徘徊、排泄物をいじる不潔行為などさまざまですが、抑肝散には、アルツハイマー症のこのような周辺症状を改善する効果・効能があると広く知られ、注目をされています。すなわち神経の興奮状態を鎮めてイライラや不安を改善し、穏やかな生活を取り戻す効能があり、また漢方薬ですので、日常生活動作を低下させることなく困った症状だけを抑えるという特徴があります。西洋薬に比べると副作用が非常に少ないので、安心して長期間服用できるお薬です。それ以外に、認知症の中には「レビー小体型認知症」というタイプがあり、幻視や妄想が強く現れることが多いのですが、抑肝散によって、この幻視が解消されることがわかってきました。

一方、抑肝散に含まれる「釣藤鈎」という生薬には、アルツハイマー病の一因とされるたんぱく質(ベータ・アミロイド)の作用を抑える働きがあることが動物実験レベルでわかり、周辺症状の改善のみならず、アルツハイマー病の根本的な治療薬としての効果があると期待されています。

また最近、大阪大学の研究により、この「抑肝散」に、アルツハイマー病の原因と考えられる脳の神経細胞死を抑える効果があることがわかったのです。「抑肝散」を構成する7種類の生薬のうち、「川きゅう(せんきゅう)」が、その効果が高かったということで、現在「川きゅう」の成分の分析・抽出が行われているようです。

周辺症状の治療に使われるお薬には他にセロクエル・リスパダール・ヒルナミンなどの薬があります。セロクエルは、糖尿病の方には使用できません。
海外の研究では、統合失調症に使われている「リスバダール」という薬が、アルツハイマー病の精神症状によいとされています。それ以外に「グラマリール」や「セレネース」などの向精神薬も使われます。

グラマリール(塩酸チアブリド)

脳の中枢に働きかけ、精神症状や異常行動を抑える薬です。具体的には、攻撃的行為、精神興奮、徘徊(はいかい)、せん妄(せんもう)などの症状の改善の目的で使用されます。また、手足の震えや、口周辺の異常運動など、身体の異常な動きを抑えるためにも使用されます。副作用として、ジスキネジア(異常運動症)、パーキンソン症状が出現することがあります。
感情の起伏が激しく暴力をふるうなどの場合にテグレトール デパケンRと言ったお薬が使われることもあります。

脳血管性認知症

脳血管性認知症は、かっての日本では一番多い原因と言われてきました。1.認知機能を障害しうる部位の脳梗塞による認知症、2.脳梗塞の多発による認知症、3.白質のびまん性病変による痴呆(ビンスワンガー病)などに分類することができますが、2の多発梗塞によるものが大部分をしめます。

脳血管性認知症の危険因子は、いわゆる脳卒中と同じで、なかでも高血圧と糖尿病が重要です。そこで、それらのコントロールが脳血管認知症の予防にはかかせません。認知症の進行は段階的で、種々の知的機能が不均一に障害される「まだら痴呆」を示し、運動麻痺、歩行障害、尿便失禁、嚥下障害などの局所神経症状を呈することが多いのも特徴です。

また脳血管性認知症では、頭重感、めまい、ふらつきなどの自覚症状が多くみられ、うつ状態を高率に伴います。せん妄も周辺症状としてしばしば問題になります。

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