脳梗塞の危険因子 コレステロールが高い

脳梗塞の危険因子 コレステロールが高い

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  1. 高脂血症
  2. 動脈硬化の予防
  3. 高脂血症とは?
  4. 治療の必要な高脂血症とは?
  5. 高脂血症の食事
  6. 善玉コレステロール
  7. 中性脂肪
  8. 高脂血症の予防に魚
  9. 動脈硬化の予防に運動
  10. 高脂血症の薬
  11. 活性酸素の害
  12. 長寿地域の研究

1.高脂血症

血液の検査でコレステロールが高いと言われました。もともと脂っこいものはキライであまり食べていません。それに何の症状もないのですが?

血液中のコレルテロールは一般にコレステロールや動物性脂肪の多い食事の取りすぎで高くなりますが、血液中のコレステロールの高い方のうち、約30%は遺伝性、家族性すなわち体質性のものであると言われます。そこで、脂っこいものはほとんど食べていないのに血液中のコレステロールが高いと言う方がおられることになるのです。

高脂血症の方の約30%は家族性、遺伝性である

いずれにしてもコレステロールを高いまま放置してはいけませんので、なんらかの治療が必要となります。一般に血液中の総コレステロールの値は200mg/dl以下が望ましく、200から220までの間は要注意、さらに220mg/dl以上では治療が必要であると言われます。

女性では更年期以後、高脂血症が増えてくる

女性の方では更年期以後、血液中のコレステロールの高い方が増えてきます。と言いますのは、閉経期以後、血液中の女性ホルモンが低下してきますが、もともと、この女性ホルモンには血液中のコレステロールを抑える働きがあるのです。そこで、この女性ホルモンの抑えがなくなったせいで、コレステロールが年とともに上昇してくることになります。これは更年期以降、骨粗しょう症の方が増えてくるのと同じ理由です。結局、年配の女性では、特に油ものばかり食べたわけでもないのに血液中のコレステロールが高くなって高脂血症の方がどんどん増えてくると言う訳です。

2.動脈硬化の予防

高脂血症を放置すると、動脈硬化が起こって、心臓や脳の病気になってしまう

お年寄りの病気で一番多いのが循環器系疾患、つまり血管の病気、なかでも脳卒中心筋梗塞なのです。人は血管から老いるとよく言われます。不適切な生活習慣や食習慣が血管の老化を早めるのです。結局、動脈硬化を防ぎ、血管をしなやかに、丈夫にしておくことが脳卒中や心臓病を予防するポイントなのです。血液中のコレステロールの高い状態が続きますと、動脈硬化が起こってきます。その結果、心臓の動脈(冠動脈と言います)が細くなって虚血性心疾患、すなわち心筋梗塞が起こったり、脳の動脈がつまって脳梗塞を起こしたりすることになります。すなわち動脈硬化を予防する第一のポイントは高脂血症を防ぐことです。

3.高脂血症とは?

脂肪の過剰摂取などにより、動脈硬化の原因となる脂肪すなわちコレステロールや中性脂肪などが血液中に異常に増えた状態のことを高脂質血症、あるいは高脂血症と言います。動脈硬化は一般に10歳台より始り、その後、次第に進行します。つまり年をとってからではすでに遅いわけで、若いうちから動脈硬化の予防に心掛けておくことが大切です。もちろん年配の方でも動脈硬化の進行を遅らせるために、同じく予防の注意に心掛けることは言うまでもありません。ところで最近、30歳から50歳台の働き盛りの年代の方に高脂血症の方が増えています。これは食生活の欧米化、すなわち動物性脂肪の多量摂取にあると言われています。

食生活の西洋化に伴い高脂血症の人が増えている

近年、日本人の血液中のコレステロ−ルや中性脂肪の値が明らかに高くなってきていることから、今後、日本で心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化による病気が急増してくるものと考えられ、早急な対策が必要であることを教えています。

ある程度の年齢となれば、高脂血症のチエックを受けることが大切である。

皆さんが病院で血液の検査を受けられた場合、高脂血症に関しては総コレステロール、中性脂肪、LDLコレステロール、そしてHDLコレステロールなどの検査項目が目安となります。

コレステロール

脂肪の種類にはコレステロール、中性脂肪など、いくつかのものがあります。これらの脂肪はそのままの形では水に溶けません。そこで、血液と言う水の中で脂肪は蛋白質と結びついて、水に溶けやすいリポ蛋白と言う結合物となって存在しています。このリポ蛋白はその重さにより通常4種類に分けられます。最近、このうちのLDLコレステロールと呼ばれるものが動脈硬化の原因として最も重要であることが分かってきました。すなわちこのLDLコレステロールは動脈硬化を進める作用が強いため別名、悪玉コレステロールとも呼ばれています。

LDLコレステロールは血液検査で判明した数値を用いて、以下の計算式で算出します。

LDLコレステロール=総コレステロールーHDLコレステロールー中性脂肪×1/5

一方、リポ蛋白のうち、他にHDLコレステロールと呼ばれるものがあります。このHDLコレステロールには逆に動脈硬化をおさえる作用があるため、善玉コレステロールと呼ばれているのです。

動脈硬化が進んだ方を調べて見ますと、もちろん血液の中の脂肪が多い高脂血症の状態である方が多いのですが、さらに細かく見てみますと動脈硬化を進めるLDLコレステロールが血液中で増加しており、一方、動脈硬化をおさえるHDLコレステロールが減少していることが多いのです。

4.治療の必要な高脂血症とは?

高脂血症の診断基準 (トリグリセリド:中性脂肪)
高コレステロール血症総コレステロール≧220 mg/dL
高LDLコレステロール血症LDLコレステロール≧140 mg/dL
低HDLコレステロール血症HDLコレステロール<40 mg/dL
高トリグリセリド血症トリグリセリド≧150 mg/dL

コレステロールの値が220 mg/dl以上では動脈硬化の進行が早まり、心筋梗塞や脳梗塞の危険が高まる

高脂血症の治療が必要であるかどうかを判断する目安として、国立循環器病センターの基準を紹介しておきましょう。コレステロールなどが高い方では、まず食事など生活習慣の改善を行います。しかし、一定期間の間、食事療法などを行い、それでも以下の基準以下に下がらない場合には薬物療法が必要とされます。

なお、他に危険因子を併せて持っている方では、それぞれの基準が厳しくなります。危険因子とは以下のものを言いますが、狭心症や心筋梗塞にかかった方では、さらに厳しくなります。

  1. 男性45歳以上、閉経以後の女性
  2. 冠動脈疾患の家族歴
  3.  
  4. 喫煙習慣
  5. 高血圧
  6. 肥満
  7. 耐糖能以上(境界型、糖尿病型)
  8. 他の高脂血症
  9. 脳、末梢血管障害

食事療法などを開始する値

  1. 他に何も異常がないとき
    • 総コレステロール 220mg/dl以上
    • LDLコレステロール140mg/dl以上
  2. 危険因子があるとき
    • 総コレステロール 200mg/dl以上
    • LDLコレステロール120mg/dl以上
  3. 狭心症、心筋梗塞にかかった方
    • 総コレステロール 180mg/dl以上
    • LDLコレステロール100mg/dl以上

しばらく食事療法を行ってもコレステロールが240mg/dl以上(LDLコレステロール160mg/dl以上)では薬を飲まなければならない

食事を含む生活指導後、改善のない場合、薬剤を使用する基準

  1. 他に何も異常がないとき
    • 総コレステロール 240mg/dl以上
    • LDLコレステロール160mg/dl以上
  2. 危険因子があるとき
    • 総コレステロール 220mg/dl以上
    • LDLコレステロール140mg/dl以上
  3. 狭心症、心筋梗塞にかかった方
    • 総コレステロール 200mg/dl以上
    • LDLコレステロール120mg/dl以上

なお、動脈硬化を抑えると言われるHDLコレステロールが40 mg/dl以下の場合にもなんらかの治療が必要あると言われています。

5.高脂血症の方の食事

それでは高脂血症を予防するための具体的な方法について説明しましょう。

動脈硬化を起こすにあったっては、血液中のコレステロールが血管の内側の壁に貯まり次第に血管が狭くなってくるのですが、まず糖尿病、高血圧、喫煙などで出来た血管の内側のキズから動脈硬化を促進する作用のある血液中の悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が血管壁内に入りこんでゆきます。次に、このLDLコレステロールが、体内で出来た有害な活性酸素の働きで、酸化LDLコレステロールになると言う風にして動脈硬化が進むのです。すなわち動脈硬化を防ぐには血液中のLDLコレステロール値を下げ、動脈硬化を防ぐ作用のある善玉コレステロール(HDLコレステロール)値を上げること、そしてLDLコレステロールが血管壁に沈着する際に働いている活性酸素の発生を抑えるような食生活とすることが大切なのです。なお、ストレスや喫煙は活性酸素の発生を増加させるので注意が必要です。それでは、それぞれについて説明してゆきましょう。

コレステロールの摂取

1日に摂取するコレステロールは300mgまでとする。

血液中のコレステロールの80%は体内で作られたものであり、食物由来のものは一部にすぎません。従ってコレステロールを取りすぎたからと言ってすぐに血液中のコレステロールが異常に増えるわけではありませんから、極端に神経質になる必要はありません。しかし血液中のコレステロールの値が高い方ではやはり摂取量を制限して頂く必要があります。1日に摂取するコレステロールは300 mgまでとした方が良いと言われています。例えば卵1個には214mgのコレステロールが含まれていますから、卵は1日1個までにした方が良いでしょう。

コレステロールが高いのですが、コレステロールの多い食品を控えておれば良いのですか?

血液中のコレステロールのうち80%は食べた物から直接ではなく、実は体内で作られているのです。そして、食べた食品から直接吸収されたコレステロールは10〜20%にすぎません。そこで血液中のコレステロール値の高い方では、コレステロールを多く含む食品を控えることも必要ですが、それ以上に大切なことが、コレステロールの合成を増やさないような食事内容にすることなのです。

コレステロールの80%は体内で作られる

結局、食べ物からとるコレステロールばかり気にしている方が多いのですが、体の中で作られるものの方がずっと多いのです。そこで血液中のコレステロールを減らすためには、コレステロールの体内での合成を増やす食品を減らし、合成させにくい食品を増やすことの方が重要です。それが飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸なのです。

飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸

動物性脂肪の摂取を控え、食事に積極的に植物性脂肪を取入れるようにします

高脂血症を予防する脂肪の取り方としては、摂取する脂肪の種類とその量を正しくしなければなりません。具体的には動物性脂肪を取りすぎないようにして、植物性の脂肪を多めに取るようにします。食物に含まれた脂肪にはいくつもの種類があります。

例えば動物性脂肪すなわちチーズ、バター、ラード、牛肉あるいは豚肉に含まれた脂肪には飽和脂肪酸と言うものが多く含まれており、これにはコレステロールを上げる作用があります。一方、コーン油やベニバナ油などの植物油あるいは魚の油には植物性脂肪すなわち多価不飽和脂肪酸が多く含まれており、これらには逆にコレスレテロールを下げる作用があるのです。なお鶏肉やオリーブ油、ゴマ油には一価不飽和脂肪酸が含まれており、これにはコレステロールを上げる作用も下げる作用のどちらもありません。

コレステロールを低下させるためには飽和脂肪酸の摂取を減らし、不飽和脂肪酸を多くとるようにする

食物中の飽和脂肪酸の量が多ければ血液中のコレステロール値は上昇し、反対に不飽和脂肪酸を多く取ると血液中のコレステロール値は低下するのです。一般に、飽和脂肪酸とは動物性脂肪のことで、不飽和脂肪酸とは植物性脂肪のことをさしていると考えて良いと思います。

そうすると多価不飽和脂肪酸ばかりをとっておれば良いようなものですが、そればかりではやはり問題のあることが分っています。要はひとつにかたよらずに、いろいろなものをバランスよく摂取することです。具体的には飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸の比率を同じか、多価不飽和脂肪酸をやや多めに取るのが良いと言われています。最近、多くの方の食事はたいてい動物性脂肪に傾きがちです。そこで、心して植物油や魚の摂取を増やす必要があるのです。

食物繊維の摂取

食事に食物繊維を積極的に取り入れるようにします

食物繊維は腸の中で胆汁中の脂肪などと結合し、その吸収を防ぐことによりコレステロールを下げる作用があります。そこで動脈硬化の予防には、この食物繊維を十分にとるようにしなければなりません。そして食物繊維としては柑橘類などの果物に含まれるペクチンやコンニャクに含まれるマンナンが良いと言われています。食事に積極的に取入れるようにしましょう。

イカ、タコ、エビを食べるとコレステロールが上がると聞きました?

確かにイカ、タコ、エビにはコレステロールが多く含まれています。そして一般にコレステロールが多いものを食べると、血液中のコレステロールは上昇すると言われています。ところが日本の漁村でイカ、タコなどをふんだんに食べている人達のコレステロール値はむしろ低いのです。

確かに100グラム換算ではイカ、タコに含まれるコレステロールは豚や牛よりも多いのですが、実際の食事でタコだけ100グラムも200グラムも食べることはないでしょう。すなわち食品に含まれるコレステロールの量ばかりでなく、実際に食べる量や食べ方も考慮して食品成分表の数値を考える必要があるのです。また漁村の方は、コレステロールを上げる作用のある動物性脂肪の摂取は多くないはずで、一方、コレステロールを下げる作用のある魚をイカ、タコ、エビ以上に、たくさん食べておられるでしょう。さらに、都会の方と較べ普段の運動量も格段に多いのではないでしょうか。

6.善玉コレステロール(コレステロールとHDLコレステロール)

血液検査でHDLコレステロールが低いので注意しなさいと言われたのですが?

血液中のコレステロールが高いと動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞などの合併症が起こります。ところが、このコレステロールにもいろいろな種類があって、そのうちのLDLコレステロールは別名、悪玉コレステロールとも呼ばれるように、これが動脈硬化を進行を速める張本人なのです。

一方、HDLコレステロールは、別名、善玉コレステロールと呼ばれ、これにはコレステロールと言う名前がついてはいますが、むしろ動脈硬化を治す作用を持っているのです。すなわちHDLコレステロールは血管の壁にこびりついたコレステロールを肝臓まで運んで燃やしてしまう働きがあり、これが高いと動脈硬化が起こりにくくなりますし、逆に低いと動脈硬化が進むことになります。そこで総コレステロールが高い方でも、同時にHDLコレステロールが高ければ治療のいらない場合もありますし、一方、総コレステロールがそれほど高くなくても、HDLコレステロールが異常に低い場合には、動脈硬化の予防のため、なんらかの対策をたてる必要が生じてくる場合もある分けです。

HDLコレステロールの低くなる原因には、喫煙、運動不足、太りすぎがある

HDLコレステロールは肥満、喫煙、運動不足などで低下すると言われています。そこでHDLコレステロールの低い方では、これを増加させる工夫が必要です。いずれにしても肥満には血圧を上げたり、中性脂肪を上昇させる作用、またHDLコレステロールを下げる作用などがありますのでよくありません。

HDLコレステロールを増やすには禁煙する。生活に積極的に運動を取入れる。太りすぎの場合にはカロリーを制限し、適正体重に近づける。

血液中の中性脂肪が増加しますとHDLコレステロールの合成が少なくなりHDLは低くなります。またコレステロールの摂取量が極端に少ない場合、総コレステロールが低くなりすぎて(例えば160mg/dl以下)、その結果、HDLコレステロールの合成も少なくなって血液中のHDLの値は低くなったりすることもあります。

コレステロールが270mg/dlもあるのに、薬を飲まなくて良いといわれました?

結局、動脈硬化にかかりやすいかどうかは、悪玉であるLDLコレステロールと善玉であるHDLコレステロールとの比率で決まります。簡単に言いますと、血液中のコレステロールが高くても、HDLコレステロールが多ければ治療の必要がない場合もあるのです。一方、血液中のコレステロールが、そう高く見えない場合でも、HDLコレステロールが極端に低ければ治療が必要な場合もあります。この方では、血液中のコレステロールは270mg/dlと高かったのですが、HDLコレステロールが70mg/dlもあったので、治療の必要がなかった訳です。

7.中性脂肪

中性脂肪の高い人では糖質やアルコールを控え、腹八分目とする

中性脂肪(トリグリセライドとも言います)の増加する原因として脂肪を多く取りすぎた場合はもちろんですが、それ以外に、実は血液中の中性脂肪のかなりの部分は糖質やアルコールから肝臓が作り出したものです。そこで脂肪の取りすぎばかりでなく、糖質やアルコールの取りすぎなども問題となります。中性脂肪の増加も動脈硬化の進行を早めます。そのため血液中の中性脂肪の値が150 mg/dl以上の時にはやはり治療を行う必要があると言われています。

高脂血症を予防するためには、食事によって摂取する脂肪を減らすことはもちろんです。一方、それ以外に、肝臓が食事中の糖分やアルコール分などから作り上げた脂肪の量も無視することが出来ません。糖質やアルコールは中性脂肪のもとになり、取りすぎると動脈硬化の進行を早めます。一般に動脈硬化と言うと脂肪ばかりがやり玉に上がり、糖分やアルコールの制限が大切なことをご存じの方は少ないようです。

すなわち高脂血症の方はもちろん高脂血症を予防するためにも、一日に摂取する食事のカロリーを適切なものとすることが必要です。そのためには、食べすぎを避け、糖分を取りすぎないように、そしてアルコールを控えることが大切なのです。

8.高脂血症の予防に魚

動脈硬化の予防には、食事にイワシ、サバ、アジ、サンマ、ニシン、タラなどの魚を取り入れると良い

EPA(エイコサペント酸)

グリンランドのエスキモーたちの食事はアザラシの肉など海獣中心の高脂肪食であるにかかわらず、脳梗塞や心筋梗塞にかかるものがきわめて少ないと言う事実が昔より注目されていました。後にその理由として、かれらが多く摂取する北の海の魚に含まれているエイコサペント酸(EPA)の作用によると分ったのです。実際、第2次世界大戦中のノルウエーでは食料不足のためやむなく魚の消費量が増えましたが、その結果、虚血性心疾患による死亡率が大きく減少したのでした。このエイコサペント酸は血液中の脂質すなわちコレステロールや中性脂肪を減らす作用、そして血液が凝固するのを防ぎ血栓を予防する効果、つまり血管をつまりにくくする作用などのあることが分っています。そもそもかっての日本ではエイコサペント酸を多く含むイワシ、サバ、アジ、サンマ、ニシン、タラなどの回遊青魚の消費量が多かったのですが、最近ではこれらの摂取量は急速に減少しており、これが近年における脳梗塞や心筋梗塞の増加の原因のひとつではないかとも言われています。いずれにしましても日本食の脂肪組成は植物油と魚の油が主なものですから動脈硬化の予防には最適であると言えましょう。

DHA(ドコサヘキサエン酸)(ディーエッチエー)

DHAには血液中のコレステロールを下げ脳梗塞や心筋梗塞を予防する作用また頭を良くする作用やボケを防ぐ作用がある。

何年か前に、イギリスのクロフォード教授が「日本人の子供が頭が良いのは魚を食べるからだ」と発表しました。これが世界中で一大センセーションを引き起こしました。その後、アルツハイマー病(痴呆症)の方と、正常の方を比べるとアルツハイマー病の方は、魚をあまり食べていなかった。また、アルツハイマー病で亡くなった方の脳には、魚に含まれるある種の脂肪酸が少ないと言う発表などが相次ぎ、研究の結果、魚に含まれるDHAが一躍、注目されるようになりました。すなわち、魚を食べると頭が良くなる。またボケ予防に効果があるという訳です。

DHAには学習能力や情報伝達能力など脳の機能に大いに関係があり、ボケを予防する効果があることが分かった

このDHAには頭を良くする作用やボケを防ぐ作用のあることが分かりましたが、さらに、血液中のコレステロールや中性脂肪を下げ動脈硬化を防ぐ作用があって、脳梗塞や心筋梗塞を予防する作用はEPAより強いことが分かったのです。

いずれにしても、魚にはEPAやDHAなどが豊富に含まれており、積極的に摂取することが大切。

このDHAは白身の魚より青背の魚、また深海魚より海の表層を回遊する魚に多く、DHAを多く含む魚はマグロ、ブリ、サバ、サンマ、イワシなどである。なおイワシは7-9月の間にはEPA、DHAの量が数倍に増えることから、旬の時期に食べるのが最も望ましい。また魚は煮ても焼いても、加工して食べても良いが、魚嫌いな人では薩摩揚げを大いに食べても良いと言われます。

魚の蛋白質にはタウリンばかりでなく、EPAやDHAなど優れた不飽和脂肪酸が含まれているため脳卒中や心筋梗塞などの血管の病気を予防するのに優れた効果がある

実際、血液中にEPAやDHAなどの不飽和脂肪酸が多い地域ほど心筋梗塞の発生率が少ない。つまり魚を食べることが多い日本人はタウリンやEPA、DHAの摂取が多く、その結果、心筋梗塞の死亡率が現在のところ低いレベルにあると考えられています。しかし、最近、日本人の魚の消費量は減少してきており、今後、心筋梗塞や脳梗塞などの成人病の増加が懸念されているのです。さてDHAは頭を良くする食べ物としてブームを呼んでいるが、植物や海草などにはDHAの仲間であるαリノレイン酸が含まれている。このαリノレイン酸は肝臓でDHAに変わることが分かりました。つまりαリノレイン酸は体内でDHAに変化するのです。実際、αリノレイン酸を多く含むシソ油のエサで育てたネズミとαリノレイン酸をほとんど含まずリノール酸が多いベニバナ油で育てたネズミとでは、前者の方が学習能力が高いと言う実験結果も出ています。

αリノレイン酸はDHAに変化することによって学習能力を高め、記憶を良くする効果がある

このαリノレイン酸やDHAはどちらも脂肪酸ですが、一般に脂肪酸は動物性脂肪、リノール酸、αリノレイン酸の3つに分類出来ます。ところで人間は必要な脂肪酸の大部分を体内で作ることが出来るですが、リノール酸とαリノレイン酸だけは作れません。そこでこのふたつは必須脂肪酸とされているのです。動物性脂肪に多い飽和脂肪酸がコレステロ−ルを上昇させ、植物油に多い多価不飽和脂肪酸が逆にコレステロールを下げることから、これまでその代表であるリノール酸が健康食としてもてはやされてきました。しかし最近、こうした植物油のリノール酸のとりすぎも実はよくないことが分かってきたのです。

つまり、最近の食生活の傾向として、揚物や炒めものを多く食べるようになっていますが、食用油にはリノール酸が多いことから、注意しないとどうしてもリノ−ル酸過多の状態になりやすい。そこで偏りを避けてαリノレイン酸とのバランスをとる。つまりリノール酸を減らし、DHAやαリノレイン酸を含む魚や野菜、海草を積極的に摂取することが大切となってくるのです。

野菜、特にその葉と根にはαリノレイン酸が多く、なかでも冬野菜のホウレンソウ、春菊、白菜、大根、カブラなどに多いため、頭を良くするには魚と冬野菜を食べるのが良いと言われています。

9.動脈硬化の予防に運動

脳血管の大敵である「動脈硬化」を防ぐには運動が一番と言われる

血液中の中性脂肪やコレステロールの状態に影響を与え動脈硬化を防止する効果が食生活以上に確実で大きいと言われているのが運動です。例えば2日に1度3キロ程度のジョギングをした場合、血液中の中性脂肪が減り、逆に善玉コレステロールが増えたと言うデ−ターがあります。

中性脂肪を減らし、善玉コレステロールを増やす作用が大きいのはジョギング、速歩などの比較的ゆるやかで時間をかけてする運動

運動の時間は1回30分以上が適当と言われています。この30分以上と言いますのは、運動を始めてもはじめの間はまず糖分がエネルギ−となり、その後、時間がたつにつれ脂肪もエネルギー源となってくるからです。つまり脂肪をエネルギーとして消費し始めるには運動を開始してから20分ぐらいかかるからです。

10.高脂血症の薬

食事療法や運動療法を行なってもコレステロールの下がらない方は、お薬を飲んで頂く必要があります。

以前に使用されていた薬では、コレステロールは下がるのですが同時にHDLコレステロールも下げてしまうことが問題になっていました。最近、HDLコレステロールを下げずに、コレステロールだけを下げるタイプの薬が登場し、現在、このタイプの薬が主流になっています。なお、薬をしばらく飲んでいますとコレステロールが下がってきますが、それで「コレステロールは下がった」と飲むのをやめてしまう方があります。しかし、一般に薬をやめるとコレステロールはもとの値に戻ってしまいますから、飲み続けて頂くことが大切です。ただ、お薬を飲んでおられる方でも、食事療法、運動療法などを頑張って行われた場合、コレステロールが下がって、薬がいらなくなる場合もあります。

コレステロールの薬を飲んだら値が下がりました。薬をやめようと思うのですが

血液中のコレステロールを下げる薬は、高脂血症を治す薬ではなくて、血液中のコレステロールを適正なレベルまで下げ、将来、起こってくるであろう動脈硬化による合併症を防ぐためのものです。つまり、薬を飲んでコレステロールが下がったからと言って、すぐに薬をやめてしまいますと、再び、コレステロールは高い値に戻ってしまいます。医師の指示なしに勝手に薬をやめてはいけません。ただ、食事によりコレステロールが上昇しているタイプの高脂血症の方では、「動物性脂肪を控える」、「適正な食事量とし食べ過ぎないようにする」、「太っている方では、痩せる」、「日常生活に運動を取入れる」などと言う自己努力を行ないますと、薬を飲まないで良くなる方もあります。

11.活性酸素の害

老化、動脈硬化、痴呆症には体内で産生される活性酸素の害が関係している。

われわれが生きてゆくために必要不可欠である酸素は、一方で体内の脂肪を酸化させ、体に害のある活性酸素(フリーラジカル)を作りだすのです。この活性酸素は動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすようにも働くのです。そこで、この活性酸素の害を防ぐため、抗酸化物質(スカベンジャーと言います)を含む食品を積極的に摂取することが大切です

有害な活性酸素の害を防ぐため抗酸化物資を積極的に摂取すること。

それでは老化や動脈硬化に関連する活性酸素の害について説明しましょう。日常生活を営むに際して、体内で発生した活性酸素は、体内に侵入した細菌を殺菌したりする良い役割も果たしているのですが、これが増えすぎた場合、そのままほうっておくと正常な細胞を傷つけたりすることになります。しかし体内には通常、それを除去する酵素が働いていて、その害を防いでいるのです。その除去酵素を含めて、活性酸素の害を防ぐ物質をスカベンジャーと言い、その作用を抗酸化作用と言います。

つまり抗酸化作用とは活性酸素の害を防ぐ作用なのです。ところが体内で活性酸素の量が増えたり、あるいはスカベンジャーの量が減ったりするような事態を生じると、発生した活性酸素を除去しきれなくなって、その結果、活性酸素の害を受けることになります。年をとると、どうしてもスカベンジャーが減ってくるので、活性酸素の害によって細胞がダメージを受けることになり、そのせいで動脈硬化が進んだり、成人病になったり、あるいは老化が早まったりすると言われます。

動脈硬化の予防には、抗酸化物(スカベンジャー)を含む食品を摂取すること

そこで、動脈硬化の予防には、スカベンジャーを含む食品を積極的にとることが大切なのです。スカベンジャーにはビタミンEのほかに、ビタミンC、カロチノイド(カロチン、リコピン)、あるいはフラボノイド(カテキン)などがある。ところでビタミンEを多く含む食品にはアーモンド、ヒマワリ油、アボガド、ウナギ、ピーナッツ、小麦胚芽、コーン油、シシャモ、サンマ、サバなどをあげることが出来ます。

ビタミンEはこの活性酸素の害を防ぐ作用があり、また動脈硬化を防ぐ善玉コレステロールを増やすように働きます。ビタミンEの1日必要摂取量は最低30ミリグラムですが、我が国の40歳以上の平均摂取率はその半分にも満たない状況です。特に多価不飽和脂肪酸(動物性脂肪)を多く摂る食事をしている人はビタミンEが多く必要になります。

ビタミンEは動脈硬化の予防に効果を示す。

ビタミンEは米、麦などの胚芽や大豆、ごまなどの種子に多く含まれています。しかし、最近では、一般に大豆製品の摂取が減っており、また、われわれが口にする穀物はほとんどが精製されたものになっており、ビタミンEが欠乏しやすいのです。さらに食生活の西洋化から酸化した油をとる機会が増えていることなどから、体内でのビタミンEの消費は逆に増えています。例えば、揚物やスナック類などの食品は油の酸化を起こし、体内のビタミンEを消耗するのです。このようにビタミンEの摂取量が減っているのにもかかわらず、体内の消費は増えており、現代人は、ビタミンEの欠乏状態になりやすくなっているのです。

12.長寿地域の研究から分かったこと

世界中を見渡してみると健康で長生きしている人の多い民族あるいは長寿地域と言うものが存在します。そこに住む人々には「血管死」が少ないと言う共通の特徴がみられるのです。これは「人は血管から老いる」と言われる事実とも合致します。そして血管死の原因となる主な病気は脳血管障害(脳卒中:脳梗塞など)と虚血性心疾患(心筋梗塞)なのです。

日本一の長寿県は沖縄です。そこでの食生活の特徴を調べてみますと、1、豚肉を使った多彩なメニューで日本の他の地域では不足しがちな蛋白質を豊富にとっている。しかも、ゆでて脂を落として食べている。2、食物繊維や体に良いミネラルがたくさん含まれている昆布を日本一多く摂取している。3、あっさりとした味付けで塩分の摂取が日本一少ない。4、大豆をうまく使った料理の種類が豊富で、植物性の良い蛋白質を摂っているなどの特徴がみられます。

その他、世界の長寿地域の研究から、結局、そこでは、1、住民の血液中のコレステロール値が低い。2、尿中のナトリウム排泄量が少なく、カリウム排泄量が多い。3、タウリンの排泄量が多いなどの特徴が見られます。ナトリウム排泄が少ないと言うことは塩分摂取が少ないことを意味し、カリウム、タウリンの排泄量が多いと言うことは、それぞれの摂取が多いと言うことを意味している。カリウムには血圧を下げる作用があり、野菜や果物、海草類に多く含まれています。タウリンは魚貝類に多く含まれていて、血圧を下げたり、血液中のコレステロールを下げる作用があります。そして、その摂取量が世界一多いのは日本であって、本邦の平均寿命が世界一であることは、ご承知のとおりです。しかし、このところ、その摂取量は低下してきているのが心配なところです。

結局、ボケや、中風を防ぎ、健康で長生きするためには、動脈硬化を防ぎ、血管をしなやかに、そして丈夫にしておくことがポイントである。そのためには、l、塩分摂取を控える。2、良質の蛋白質を摂取する。3、マグネシウム、カリウム、カルシウムなどのミネラル(微量元素)を摂取する。4、活性酸素の害を防ぐ抗酸化物質を摂取する。5、タウリン、食物繊維を摂取するなどの心がけが大切である。

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