慢性疼痛、難治性頭痛、神経障害性疼痛の治療薬

慢性疼痛、難治性頭痛、神経障害性疼痛の治療薬

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  1. 痛みの抑制システム
  2. 抗うつ剤が難治性疼痛に効く
    1. トリプタノール (アミトリプチリン)
    2. サインバルタ (デュロキセチン)
  3. リリカ (プレガバリン)
  4. 抗けいれん剤
    1. テグレトール (カルバマゼピン)
    2. リボトリール (クロナゼパム)
    3. ガバベン (ガバペンチン)
  5. トラムセット

痛みの抑制システム

痛み刺激の中枢への伝達経路としては、皮膚、内臓、骨膜、筋膜などに存在する受容器(センサー)から脊髄後角までの間が一次ニューロンであり、二次ニューロンは脊髄後角から対側の脊髄視床路を通り視床まで、そして三次ニューロンが視床から大脳皮質までの間を伝達し、最終的に大脳(感覚領野)が痛みを感知する。

例えば、興奮した場合に痛みを感じなかったりすることがある。それは生体に痛みを抑えるための複数のシステム(疼痛抑制系)が存在するからである。その中に下行性疼痛抑制系と内因性オピオイド系がある。下行性疼痛抑制系とは、脳幹から脊髄に向かって下行する抑制性ニューロンの作用によって、脊髄後角での一次ニューロンと二次ニューロンとの間のシナプス伝達を抑制し、末梢からの痛み情報が二次ニューロンに伝わらないようにして、痛みを和らげるものである。

神経末端にあるシナプス間では、前の神経から後の神経に対し神経伝達物質の放出がなされ、それより情報伝達が行われる。これをシナプス伝達という。下行性疼痛抑制系の抑制性ニューロンは、脊髄後角へノルアドレナリンもしくはセロトニン(伝達物質)を放出し、一次ニューロンと二次ニューロンとの間のシナプス伝達を抑制する。それぞれの伝達物質が放出される神経経路をノルアドレナリン系、セロトニン系と呼ぶ。ノルアドレナリン系、セロトニン系ともに脳幹の中脳から始まる神経経路である。この下行性疼痛抑制系の作用を利用し痛み和らげる薬剤がいくつか開発されているのである。

抗うつ剤が難治性疼痛に効く

日本では、これまで慢性疼痛に対する「抗うつ剤」の使用は健康保険での適応承認が得られていなかったが、古くから三環系抗うつ剤(TCAS)およびセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI)については、慢性疼痛の改善効果に対しての有効性が確立していた。近年、片頭痛予防の有効性から社会保険診療報酬支払基金 審査情報事例にアミトリプチン(トリプタノール錠)について「片頭痛」、「緊張型頭痛」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める(健康保険適用)との内容が掲載された。

日本ペインクリニック学会による神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン、国際疼痛学会、欧州神経病学会議ガイドラインほか各国ガイドラインでTCAS(ノルトリプチリン、アミトリプチリン)とSNRI(サインバルタ:デュロキセチン)は第1選択薬に位置付けられている。

これら抗うつ薬の疼痛改善作用は抗うつ作用によるものではなく、三環系抗うつ剤(TCAS、アミトリプチリン、ノルトリプチリン)およびセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI)は、ともに中枢神経系におけるセロトニン・ノルアドレナリン再取り込みを阻害することで、痛みに対する下行性抑制系を賦活して、神経障害性疼痛や慢性疼痛を軽減する。TCASには、このほかにナトリウムチャネルおよびカルシウムチャネル遮断作用もあり、末梢レベルでも神経障害性疼痛を抑制する。いずれも速効性はなく、服用開始後、数日してから始めて効能が現れることを理解しておく必要がある。

四環系抗うつ剤や、選択的セロトニン再取り込阻害薬(SSRI)にも同様の鎮痛効果があるが、TCASやSNRIに比較しエピデンスが劣る。日本では、SNRIとしてデュロキセチン(サインバルタ)が神経障害性疼痛治療に用いられる。他のSNRIとしてトレドミン(ミルナシプラン:日本で開発された)が挙げられ、エピデンスにいまだ乏しいものの実験的・臨床的に鎮痛作用が示されつつある。 サインバルタについては、これまで、「うつ病・うつ状態、糖尿病性神経障害に伴う疼痛」、「線維筋痛症に伴う疼痛」への健康保険での使用(適応)が認められていたが、28年3月、「慢性腰痛症に伴う疼痛」への適応が承認となった。

三環系抗うつ剤(TCAS)は、慢性疼痛に対する有効性の歴史が古く、また、安価であるという利点もあるが、副作用として抗コリン作用 (口掲、便秘、尿閉)、や心電図異常、過量使用で心不全リスクがあることなどから高齢者では使用しづらい。SNRIであるサインバルタ(デュロキセチン)には、抗コリン作用、キニジン作用がなく、使用しやすい。ただしサインバルタの副作用としては悪心をきたすことがある。しかし30mg/日以下で開始し、空腹時投与を避ければ問題になることはまずない。すなわち高価ではあるが、副作用が少ない点でSNRIが優れている。TCASおよびSNRIとも中枢神経系におけるノルアドレナリン再取り込み阻害作用があるため、緑内障、排尿障害がある場合には用いない。

トリプタノール (アミトリプチリン)

三環系抗うつ薬であるトリプタノールの鎮痛効果は脳内のセロトニンやノルアドレナリンなど、神経伝達物質の神経への再取り込みを阻害することにより、下行抑制系を活性化させて痛みを抑制する。

トリプタノールは1960年代の開発以来、口腔顔面痛や片頭痛、群発頭痛、腰痛、腹痛、繊維筋痛症などの慢性疼痛に効果がみられ、広く使用されている。また欧米では片頭痛予防薬の第一選択として使用されている。最近、社会保険診療報酬支払基金、審査情報提供事例において、(1)「慢性疼痛におけるうつ病・うつ状態」に対し処方した場合、当該使用事例を審査上認める。(2)「アミトリプチリン塩酸塩【内服薬】」を「片頭痛」、「緊張型頭痛」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。との記載がなされた。 なお、当科では他の薬剤が無効な場合の片頭痛予防薬としての使用が多い。

トリプタノール使用上の注意点としては、(1)即効性はなく、最初の効果は服用開始から約2週間で徐々に現れる。(2)抗コリン作用や抗ヒスタミン作用のため、口の渇きや眠気、便秘、排尿困難などの副作用をきたす場合もあるが、通常、副作用が効果より先に現れることが多い。(3)少量から開始し、効果と副作用の兼ね合いをみながら、十分な効果が得られるまで増量して行く、という使い方であることから、「効かない」「自分の体に合わない」と途中で中断してしまわないよう、その特徴をよく理解しておく必要がある。なお緑内障、前立腺肥大症の方への使用は注意が必要である。

トリプタノールは効果の持続時間が長い。就寝時に眠気が出るよう、通常、1日1回の服用で就寝3〜4時間前の服用が良い。実際の使用法としては、初めは少ない量(10mg)から開始し、体が慣れてくるにつれて徐々に量を増やして行き、十分な効果がみられた時点でその量を継続して服用する。なお80mgの服用で50%の例に効果が得られたという報告がある。ただし、急に中止すると不眠や吐き気、食欲不振、頭痛、めまい、倦怠感といった離断症状が現れる場合があるため、中止する場合は薬を徐々に減量していく必要がある。

サインバルタ (デュロキセチン)

サインバルタは、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)の 1 つであり、保険適応は、うつ病・うつ状態、および、「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」であったが、海外では、線維筋痛症や慢性筋骨格痛にも使用されており、最近、繊維筋痛症、「慢性腰痛症に伴う疼痛」への保険適応が追加された。

鎮痛機序として、セロトニンおよびノルアドレナリンの再取り込み阻害による下行性痛覚抑制系の活性化と考えられ、その作用により神経障害性痛に効果があると考えられる。また、うつ状態や精神的要素が強く関与すると思われる疾患では効果があらわれやすい。1 日 1 回、朝食後に 20〜60mg を服用する。副作用として、傾眠、嘔気、便秘、めまい、倦怠感、口渇、頭痛、下痢などがある。

リリカ (プレガバリン)

2011年 7 月には、日本ペインクリニック学会神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン作成ワーキンググループより「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン」が発表され、神経障害性痛の薬物療法に一定の方針が示された。この中で三環系抗うつ薬とともに第1選択薬とされているのがガバペンチン (ガバペン)とプレガバリン (リリカ)である。

リリカは神経節のカルシウムチャンネルをブロックすることで痛みを抑える働きがある。最初、末梢性神経障害性痛の代表疾患である「帯状疱疹後神経痛」に対する健康保険適応のみであったが、その後、有痛性糖尿病性神経障害や三叉神経痛も含む「末梢性神経障害性疼痛」に適応が拡大された。リリカはトリプタノールに比べて副作用が少なく、効果の出現が早いという利点がある。末梢性神経障害性痛に対する使用法は、通常成人に対し初期用量は150mgを1日2 回に分けて経口投与し、1 週間をかけ1日量300mgまで漸増するとされている。しかし、実際の使用法としては、より少ない量もしくは眠前投与のみから開始し、効果がみられるところまで、もしくは副作用があらわれるまで増量し、個々の至適用服用量を決めるのが良い。リリカで最もよくみられる副作用は、眠気とふらつきである.服用量が増えるにつれ、また高齢になるにつれてその頻度は増加する。そこで服薬後の自動車運転や危険を伴う機械の操作を避ける。その他の副作用としては、浮腫が15%程度報告されている。そこで、全身性の浮腫や食欲亢進に伴う体重増加についても注意が必要である。

抗けいれん剤

主な疼痛改善の作用機序として、 神経細胞膜のNa+チャネルに作用し、Na+チャネルを阻害することにより、神経の興奮を抑制する。またGABA受容体にも作用し、過剰な神経興奮を抑制する。ベンゾジアピン系で抗けいれん薬としても使用されるリボトリール (クロナゼパム)は、GABAニューロンの作用を特異的に増強する。ガバベン (ガバペンチン)は肝臓での代謝をほとんど受けないため、薬物相互作用の影響を受けにくいという利点がある。

テグレトール (カルバマゼピン)

テグレトールは三叉神経治療薬として有名である。神経細胞のNaチャネルを遮断し、膜活動電位の立ち上がりを阻害することにより神経痛を改善する。テグレトールの神経痛への使用は、三叉神経痛については健康保険での使用がすでに承認済みであったが、その後、社会保険診療報酬支払基金 審査情報提供事例として、(1)「カルバマゼピン」を「抗痙攣薬の神経因性疼痛、各種神経 原性疼痛、がん性疼痛」に対し処方した場合、当該使用事例を審査上認める。(2)「多発性硬化症に伴う異常 感覚・疼痛」、「頭部神経痛」、「頚部神経痛」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認めると記載がなされた。 副作用として、ふらつき感や眠気を催す場合があるので、使用する場合は、少量から開始し、効果がみられるまで、徐々に増量するという使い方を用いる。また、テグレトールは比較的、湿疹が多い薬剤なので、湿疹を生じた場合は直ちに中止する。また稀に血液障害を生じることがあるので、服用開始後、適切な時期に血液検査でのチエックが必要である。なお、当科では後頭神経痛、また耐え難いしびれ感につき、他の薬剤が無効な場合での使用が多い。

リボトリール (クロナゼパム、ランドセン)

難治性疼痛のコントロールにリボトリール0.5〜1mgがしばしば使われる。数日後に蓄積性の眠気を生じることがあるが、大きな副作用はなく、不眠がある場合には使用しやすい治療薬である。

クロナゼパムはベンゾジアゼピン系薬と呼ばれる種類の薬で、「脳の神経興奮を鎮める物質」の働きを強めることによって、異常な興奮を抑える作用がある。つまりベンゾジアゼピン受容体を刺激することで、神経細胞の異常な興奮を抑える作用を持つ。

神経の興奮にはNa+、Ca2+、Cl−などのイオンの動きが関わっている。Na+、Ca2+は興奮性のシグナルで、Cl−は抑制性のシグナルである。元々細胞内はマイナスの電荷を帯びており、ここにプラスの電荷をもつNa+が細胞内へ流入すると、細胞内の電荷がプラスへ転換される。この現象を脱分極と呼ぶ。脱分極が起こることで、神経の興奮が伝わってゆく。一方、マイナスの電荷をもつCl−が細胞内へ流入すると、先ほどとは逆に、細胞内がマイナスへ傾き過ぎてしまうため、なかなか脱分極が起らなくなる。つまり、神経興奮が抑えられてしまうことになる。体には「Cl−」の流入に関わる受容体」が存在しており、これをベンゾジアゼピン受容体と呼ぶ。ベンゾジアゼピン受容体の刺激作用が刺激されれば、Cl−が細胞内へたくさん入ってくるようになり、異常な神経興奮を抑制できるようになる。なお脳の神経でCl−がたくさん流入するようになると、脳機能の抑制、つまり、鎮静作用が起こる。そこで主な副作用としては眠気(13.9%)やふらつき(7.6%)などが知られている。

ガバペン (ガバペンチン)

ガバペンは疼痛に関するグルタミン経路にもGABA経路にも作用する薬剤で、他の薬剤より、より広く作用する。ただし、現在のところ「抗けいれん剤」としての保険適応のみであり、疼痛に対し保険適応がない。神経障害性疼痛に投与する場合の開始量は、ガバペン(200mg)1錠眠前またはガバペン(200mg)2錠分2 昼、眠前とする。副作用は眠気とめまい、ふらつきで、これらに注意しながら、効果がみられるまで増量する。ガバベンは体内で代謝をうけず、そのまま尿中に排泄される。従って臓器障害を起こす可能性は少ないが、腎機能障害があると体内に蓄積しやすい。そこで腎機能にあわせての減量が必要になる。

トラムセット

トラムセットは2011年発売に発売された薬剤で、トラマドールとアセトアミノフェンという2種類の鎮痛剤がセットになったもので、通常の鎮痛剤では効果がない痛みの際に使用される。トラマドールは、脳内のオピオイド受容体と結びついて鎮痛効果を発揮する。オピオイドとは、モルヒネやコデインなど麻薬のアヘンに似た物質で鎮痛作用が強い一方、一般に、依存性や耐性、呼吸抑制などの問題点がないとは言えない。しかし、弱オピオイドに分類されるトラマドールは、その点問題が少ないと考えられている。また、トラマドールには三環系抗うつ薬と同様のセロトニン、ノルアドレナリン再取り込み阻害作用があるため、脳内の下行抑制系を活性化し鎮痛作用を併せ持つとされる。

モルヒネとは、アヘンに含まれているアルカロイドで麻薬のひとつである。オピオイドとは、オピオイド受容体に結合する物質の総称で、このオピオイドの主要な作用は鎮痛作用であり、モルヒネもオピオイドのひとつである。オピオイド受容体はモルヒネが結合する受容体として発見されたもので、モルヒネ受容体とも呼ばれている。さらにモルヒネ様物質(オピオイド)の受容体が脳や脊髄に存在し、中枢性鎮痛作用を有しており、エンケファリンやβエンドルフィンの分泌に伴う鎮痛系などがこれに相当する。

内因性オピオイド系とは、内因性オピオイド(身体の中で作られるオピオイド)をオピオイド受容体に結合させることで、痛みを和らげるものであり、オピオイド受容体は、中枢神経系に幅広く分布している。痛み経路の途中にあるオピオイド受容体にオピオイドが結合すると、痛み刺激が伝達されにくくなり、痛みが和らぐこととなる。

モルヒネ及びオピオイドの作用は、(1)オピオイド受容体活性化により、さまざまな細胞内情報伝達系が影響を受け、神経伝達物質の遊離や神経細胞体の興奮性が低下し神経細胞の活動が抑制される。(2)鎮痛作用は、主にμオピオイド受容体を介して発現し、脊髄後角に投射している一次知覚神経からのサブスタンスP、ソマトスタチン およびグルタミン酸などの痛覚伝達物質の遊離を抑制し、あるいは脳内痛覚情報伝達経路の興奮を抑制するなどして、上行性痛覚情報の伝達を抑制する。また視床や大脳皮質知覚領域などの脳内痛覚情報伝導経路の興奮抑制といった上行性痛覚情報伝達の抑制に加え、中脳水道周囲灰白質、延髄網様体細胞および大縫線核に作用し、延髄−脊髄下行性ノルアドレナリンおよびセロトニン神経からなる下行性疼痛抑制系の賦活化などにより痛みを和らげる。

アセトアミノフェンは脳に直接働きかけることにより鎮痛効果を発揮する。一般の鎮痛剤(非ステロイド系消炎鎮痛剤)は、痛む部分の炎症を抑えることによって症状を緩和するが、アセトアミノフェンはそれらと異なる作用機序により痛みを抑制する。

トラムセットの適用は、口腔顔面痛のような慢性疼痛と抜歯後の疼痛であり、慢性疼痛では1回1錠で1日に4回、抜歯後疼痛の場合は1回2錠を経口服用する。副作用としては、眠気、口が渇く、吐き気、食欲不振、便秘などが現れることがある。保険適応病名は「非がん性慢性疼痛」

  1. 日本ペインクリニック学会、神経障害性獲痛薬物療法ガイドライン作成ワーキンググループ編:神縫障害性癖癌薬物療法ガイドライン.真興交易、東京。2011.
  2. 慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会:慢性頭痛の診療ガイドライン2013.
  3. 日本神経学会、慢性頭痛の治療ガイドライン、2013.
  4. がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2010年版
  5. 聖隷三方原病院 症状緩和ガイド 疼痛、神経障害性疼痛
  6. 日本医師会雑誌 第143巻、特別号(1)痛みのマネージメントupdate基礎知識から緩和ケアーまで
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