脳梗塞の予防に使われる薬剤(医療関係者向け)

脳梗塞の予防に使われる薬剤(医療関係者向け)

  1. 脳梗塞の再発予防に使われる薬剤
  2. 脳梗塞を起こす機序には3つのタイプがある
  3. 脳梗塞にはいくつかのタイプがあり、それぞれで危険因子が異なり、そのため予防に使われる薬剤が異なる 
  4. 血栓が出来る機序には二つのタイプがあり、それぞれの予防に使われる薬剤が異なる
  5. 抗凝固薬
  6. 新しい経口抗凝固剤
  7. 抗血少板剤
  8. アスピリンジレンマーアスピリンの至適服用量とは
  9. 手術などを受ける際のアスピリンの中止期間の理屈
  10. パナルジン(チクロピジン)
  11. クロピドグレル(ブラビックス)
  12. プレタール(シロスタゾール)
  13. 脳卒中学会のガイドライン

脳梗塞の再発予防に使われる薬剤

脳梗塞の再発予防に「抗血小板剤」を、そして心房細動からの脳塞栓の予防には「抗凝固剤」が使用される。抗血小板剤と抗凝固剤の使い分けについて解説する。

脳梗塞を起こす機序には3つのタイプがある

  1. 血栓性(thrombotic) 動脈硬化性病変により動脈の狭窄が徐々に進行し、最終的に血栓により閉塞するタイプ。時に動脈壁の不安定プラークの破綻により急性閉塞をきたす場合もあるが、一般に症状は2〜3日かけて緩徐進行性に増悪し、その間、症状の動揺をきたすことが多い。なお脳底動脈などの場合では1週間ぐらいかけて増悪寛解を繰り返しながら症状が完成することもある。
  2. 塞栓性(embolic) 動脈近位部 (塞栓源)に出来た血栓がはがれ、塞栓となり遠位部の脳動脈に流れて行って急性閉塞するタイプ。症状は突発完成性。
  3. 血行力学性(hemodynamic) 灌流動脈の近位部に閉塞や高度の狭窄があるが側副血行などを通じて、普段は症状がでない程度の脳血流が残っている状態(misery perfusion)があり、血圧低下とか低酸素血症が生じた際に、最も血流の届きにくい部分の虚血を生じ、そこが梗塞に陥る病態。その前に同じ症状のTIA(一過性脳虚血発作)を繰り返すことが多い。

脳梗塞にはいくつかのタイプがあり、それぞれで危険因子が異なり、そのため予防に使われる薬剤が異なる

脳梗塞には次のようなタイプがある。このうちラクナ梗塞が最も多く、最近年配の方を中心に心房細動にかかる方が増え、そのせいで脳塞栓が増加している。脳梗塞は夏に多い傾向があるが、脳塞栓は幾分冬季に多い傾向がある。

  1. 皮質枝梗塞(アテローム血栓性脳梗塞)
  2. 穿通枝梗塞(ラクナ梗塞) 
  3. BAD(branch atheromatous disease ) 
  4. 脳塞栓(心源性脳梗塞など)
  5. 境界域脳梗塞(water-shed infarction)
  6. 動脈解離(椎骨脳底動脈領域に多いが、内頸動脈系にもある)
  7. 若年者の脳梗塞(抗リン脂質抗体症候群、線維筋性異形性 Fibromuscular dysplasi、モヤモヤ病など)

1.皮質枝梗塞の原因はアテローム動脈硬化、そして危険因子は高脂血症や糖尿病

このタイプの脳梗塞は一般に皮質枝と言われ、脳の動脈の中でも太い血管に起こり、高脂血症(脂質異常症、高コレステロール血症)や糖尿病から動脈硬化(アテローム硬化)を起こし、それによって起こるタイプの脳梗塞である。つまり動脈硬化性病変の狭窄度が徐々に進行し、最終的に血栓により閉塞する病態である。そして、このタイプでは太い血管が詰まるため、脳梗塞を起こすと、一般に広い範囲の脳梗塞を起こす。例えば失語症があれば皮質動脈の閉塞を考えるが、ラクナ梗塞では失語は起こらない。症状は緩徐完成性で、進行、動揺することが多いとされる。なお不安定プラークの破綻により急性閉塞をきたす場合もある。

2.穿通枝(ラクナ)梗塞の危険因子は高血圧

細動脈硬化に起因する穿通枝深部動脈の血管壊死やリポヒアリノ―シスよる狭窄、そして閉塞であり、危険因子は高血圧。この病理学的変化は脳梗塞のみならず脳出血を引き起すことにもなる。ラクナとは西洋チーズの切断面にみられる空気穴に似ていることからきた名前である。

3.BAD(branch atheromatous disease)  

皮質枝からの穿通枝開口部に生成したアテローム硬化病変を起因とする開口部の閉塞により、結果として穿通枝の閉塞をきたしたものである。穿通枝領域の梗塞を起こすが、穿通枝梗塞と違い、皮質枝梗塞すなわちアテローム血栓症と同じ危険因子(脂質異常症、高コレステロール血症や糖尿病)である。このBADは急性期脳梗塞の10〜17%、非心源性脳梗塞の15%〜25%を占める。BADは、穿通枝に沿った細長い脳梗塞になるため、CTで3スライス以上連続する脳梗塞がみられる。BADの25〜39%に症状の進行がみられることから、発症後、あるいは入院後に症状が進行することが多く、運動機能の回復が良くないという特徴がある。

4.脳塞栓

代表的なものが心原性脳塞栓(cardioembolic)。通常皮質を含んだ大梗塞を生じ、症状は突発完成性。塞栓源としては心房細動、急性心筋梗塞、拡張型心筋症、人工弁などを基礎疾患として左心耳、左心房、左心室に出来た壁在血栓によるもの、または粘液腫、疣贅(ゆうぜい:感染性心内膜炎による細菌性のこぶ)などによる。閉塞後の再開通による出血性梗塞を認めることも多い。それ以外に 血管原性塞栓(artery to artery embolism)すなわち動脈硬化により頚部内頸動脈分岐部にプラーク(粥腫)があり、そこからはがれた血栓が遠位の中大脳動脈まで飛び、そこを閉塞した場合など、あるいは大動脈原性脳塞栓、すなわち上行大動脈から弓部かけての部分における粥状硬化巣や解離からの塞栓症もある。このような場合、シャワーを浴びたような皮質枝領域の小梗塞の多発で発症することが多い。

5.血行力学性

例えば内頸動脈閉塞あるいは中大脳動脈主幹部の閉塞の際に、中大脳動脈遠位部が後大脳動脈や前大脳動脈からの側副血行により血流がかろうじて維持されている場合などで、血圧が下がった際に同部の灌流圧が低下し虚血を生じて脳梗塞に至るもの。

血栓が出来る機序には二つのタイプがあり、それぞれの予防に使われる薬剤が異なる

血栓の予防には、血小板の働きを抑える「抗血小板薬」と、凝固因子の働きを抑える「抗凝固薬」との2種類とがある

血栓症の発生に、動脈では血小板が、静脈などで血液が滞るために起こる血栓症では凝固因子の働きが重要である。すなわち血流が速く、血圧の高い動脈では摩擦力(ずり応力)大きくなり、一方、血流の遅い、血圧の低い静脈で小さくなる。血栓ができる際には、この「ずり応力」が強く影響するが、「ずり応力」が大きいところで血栓ができる際には、「血小板」が最も大きな働きを果す。一方、ずり応力が小さい、血流の滞留しているところでは、フィブリノーゲンをはじめとする「凝固因子」の働きが活発になることが大きな役割を果す。従って摩擦力(ずり応力)の高い動脈で、動脈硬化が主体となる血栓症を防ぐには、血小板の働きを抑えることが必要となる。一方、血液が滞ることが主体となる血栓症などでは、凝固因子の働きを抑えることが必要となる。そこで、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞など、動脈で起こる血栓症では、主に抗血小板薬が使われ、人工弁置換術後、心房細動、深部静脈血栓症、肺梗塞など主に血流の乱れや鬱滞による血栓症では、抗凝固薬が主に使われることになる。

なお、血小板と凝固因子とは、お互いに影響し合い血栓を作ることがあり、両者の働きを明確に分けることが困難な場合もあって、抗血小板薬と抗凝固薬との両者が必要になることもある。

抗凝固薬

フィブリンがつくられるには、まず血管内皮が傷ついて組織因子が血中に現れ、凝固第7因子と結合し反応が始まる。次にプロトロンビン(凝固第2因子)がトロンビンに変化し、最終的にフィブリノーゲンをフィブリンに変える。この反応の際に現れる凝固第2、第7因子(他に第9、第10因子)は「ビタミンK依存性凝固因子」と呼ばれ、これらが肝臓で作られる際にビタミンKを必要とする。すなわち抗凝固薬としてよく使われる「ワーファリン」は、その作用機序から、ビタミンK拮抗薬と呼ばれる。つまりプロトロンビンなど血液凝固因子の合成に欠かせないビタミンKの働きを阻害することにより。その結果として、凝固系の働きが抑制され、抗血栓効果を発揮する。その作用面から抗凝固薬もしくは抗凝血薬、または血液凝固阻止薬などと呼ばれる。

抗凝固薬のうち注射薬としてはヘパリン、低分子ヘパリン、アルガトロバン、ダナパロイドナトリウム、フォンダパリヌクスが使用されている。経口投与できる抗凝固薬には「ワーファリン」が使われてきた。ワーファリンは、直接、凝固因子を抑えるわけではないので、飲み始めから作用が安定するまでに時間がかかる。また、その作用に影響する遺伝子が人によって異なるため、効き方に違いがあり、さらに体調や食事内容などによっても効果が変わることがある。そこで服用中は、効果の程度を定期的に検査し、服用量を調節する必要がある。そのため「プロトロンビン時間(PT)検査」が行われ、これを国際標準化プロトロンビン比(INR)で表示する。
日本循環器学会のガイドラインによるワーファリン投与におけるPT-INRの目標値では、70歳未満では2.0〜3.0、70歳以上では1.6〜2.6を目標とされている。

非弁膜症性心房細動(NVAF)のワーファリンによる血栓塞栓症の効果を検討した欧米の研究によると、ワーファリンを投与していない場合の血栓塞栓症の発症率は年平均4.5%であったのに対して、ワーファリンを投与した場合には年平均1.4%と約70%が予防できたとのことである。ワーファリンを投与すると皮下小出血などの頻度は多くみられたが、脳出血や入院、輸血、手術を要するような大出血の頻度には差はみられなかったとのことである。70歳以上では、PT-INR2.2を超えると重篤な出血性合併症がみられ始め、2.6を超えると急激に増加するので注意が必要となる。

ワーファリンの効果はビタミンKによって減弱する。納豆、クロレラはワーファリンの効果を弱めるので食べないように指導する必要がある。ワーファリンの作用を増強する薬としては、抗てんかん剤、解熱鎮痛消炎剤、精神神経用剤、不整脈用剤、利尿剤、高脂血症用剤、消化性潰瘍剤、ホルモン剤、痛風治療剤、酵素製剤、糖尿病用剤、抗生 物質などがあり、一方、作用を弱める薬として代表的な物はビタミンK含有剤として、骨粗鬆症の治療薬グラケーがある。

新しい経口抗凝固剤

さてワーファリンは定期的な検査が必要なことに加え、食事などの影響を受けやすく、常に注意が欠かせない。このため、定期的に検査を受けなくても、一定の量を使うことができる経口凝固薬の開発が進められた。2011年1月21日、直接トロンビン阻害薬のダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(商品名プラザキサカプセル75mg、同カプセル110mg)が製造承認を取得した。適応は「非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症予防」であり、1日2回、1回150mgの投与を基本とし、必要に応じて1回量を110mgに減量する。ダビガトランは、トロンビン活性部位に競合的かつ可逆的に結合することで、トロンビンの触媒反応を阻害する直接トロンビン阻害作用を有する。すなわちトロンビンの活性を阻害することで抗凝固作用を発揮する。ダビガトランの代謝にはCytochrome p-450 は関与しないので、食事、薬物相互作用、genetic polymorphism の影響を受けにくい。

ワーファリンを対照として行われた第3相国際共同試験では、ダビガトランの臨床有用性が示されている。心房細動患者で、脳卒中、全身塞栓症をプライマリーアウトカムとしたスタディでは、ダビガトラン110mg1日2回投与はワーファリンと劣ることがなく、150mg、1日2回投与はワーファリンより有効であった。重篤な出血性合併症はダビガトラン110mg、1日2回投与で若干多く、150r、1日2回投与では有意差はなかった。そして脳出血はダビガトランではワーファリンの1/3であった。また日本人を含む第3相国際共同試験では、21.4%に副作用が認められているので、十分な注意が必要である。主な副作用は、消化不良(3.0%)、下痢・上部腹部痛・鼻出血・悪心(各1.1%)などであり、重大な副作用としては、出血(頭蓋内出血、消化管出血)が報告されている。臨床第3相試験では、重大な出血は低用量群で2.71%/年、高用量群で3.11%/年でワルファリンの3.36%をいずれも下回った。また懸念された頭蓋内出血の発症率もワルファリンを下回る結果となった。

先に厚生労働省からプラザキサの使用に関する安全性速報が出ており、その内容は、」血液凝固阻止剤「プラザキサカプセル」について、消化管出血等の出血性副作用による死亡例が報告されており、更に注意喚起を徹底するため、製造販売業者に対して、「使用上の注意」の改訂を行うとともに、医薬関係者に対して速やかに情報提供するよう指示したのでお伝えします。」また日本循環器学会から「心房細動における抗血栓療法に関する緊急ステートメント2011/8/15」が発表されている。以上より出血リスクへの注意、腎機能の確認、定期的な腎機能検査などを必ず行う必要がある。

抗血少板剤

血小板の表面には、血液中や血管に存在するフィブリノーゲン、フォン・ウィルブランド因子、コラーゲンなどと結合する受容体と呼ばれる分子が存在し、それと反応しあって刺激を受け、結果として血小板の働きや反応が活発になる。その結果、血小板から、さらに血小板の働きを活発にする物質が放出される一方、「偽足」と呼ばれる足を出し、円盤のような形に変わって、血管の傷ついた部分にくっつき、お互いが結合し、血栓を作ってゆく。
血小板の働きが活発化するのを抑え、血栓をできにくくするのが抗血小板薬で、そのうち代表的なものがアスピリンである。
経口抗血小板薬にはアスピリン、クロピドグレル、チクロピジン、シロスタゾールなどがある。それ以外に効果は弱いですが、セロクラールやケタスも抗血小板効果を持つ薬剤である。アスピリンは、血小板の働きを活発化するために必要なトロンボキサンA2を作るシクロオキシゲナーゼという酵素の働きを抑えることによって、血小板同士の結合、血小板の働きを活発にする物質の放出を抑え効果を発揮する。内服後、1日で最高に達し2日で安定する(4時間で抗血小板作用出現、10時間目で効果最高にという文献もある)。アスピリンの脳梗塞予防効果が15%リスク低減との報告や、脳卒中やTIAにおける血管イベントの発生を22%低減させるとの報告がある(ATTの報告)。

アスピリンジレンマ ―アスピリンの至適服用量とは―

アスピリンは1日75〜150mgで最も大きな効果があるとされている。血小板凝集反応が起こると、血小板にあるアラキドン酸は。酵素の働きでPGI2(プロスタサイクリン)とトロンボキサンを作り出す。プロスタサイクリンは血管の内皮細胞にあり、血小板の凝集を妨げる働きがある。トロンボキサンは血管を収縮させ、血小板を凝集させる働きがある。アスピリンはこの両者の働きを妨げる作用があり、トロンボキサンの働きを妨げ血管を広げ血小板の凝集を妨げる一方、プロスタサイクリンの働きを妨げ血小板の凝集を亢進させる。この現象をアスピリンジレンマと呼ぶ。

アスピリンが少量であれば、トロンボキサンの働きは抑えるが、プロスタサイクリンの働きには影響を与えない。つまり、80mg程度の服用では、トロンボキサンはほぼゼロになってしまうが、プロスタサイクリンはまだ60〜80%残っている。そこで、脳梗塞の再発予防には、80mg程度の少量が用いられる。

手術などを受ける際のアスピリンの中止期間の理屈

血小板の寿命は約10日間である、アスピリン不可逆的に血小板を抑制するので、アルピリンに暴露した血小板は、その寿命である10日間の間、機能が停止したままとなる。つまり血小板に対する作用は血小板の寿命がなくならないと消えない。そこで、服薬を中止して、その効果が完全に切れるのは7〜10日後となる。

パナルジン(チクロピジン)

血小板のG蛋白結合型ADP受容体の阻害により、GPIIb/IIIaへのフィブリノーゲンへの結合を抑制する。内服後,血中濃度のピークは2時間後であるが、血小板凝集抑制作用は投与後24時間で最大に達する。(血中濃度のピークと効果との間にずれがある)。作用はアスピリンと同じく、血小板の寿命とともに消失する。一般に内服後2〜3日で効果を発現し、4〜7日で安定する。副作用のチエックのため、服薬直後は2週間ごとに血液検査を行う必要がある。
(使用説明書内の警告:血栓性血小板減少性紫斑病、無顆粒球症、重篤な肝機能障害などの重大な副作用が主に投与開始後2ヶ月以内に発現し、死亡に至る例も報告されている。)

クロピドグレル(ブラビックス)

2006年1月23日、抗血小板薬の「硫酸クロピドグレル」(商品名:プラビックス錠、写真)が承認された。クロピドグレルは塩酸チクロピジン(パナルジン)と同じ、チエノピリジン骨格を有する抗血小板薬である。肝臓で代謝を受けて生成される活性代謝物が、血小板上のアデノシン二リン酸(ADP)受容体に不可逆的に結合することにより、持続的な血小板凝集抑制作用を発揮する。作用持続期間は約10日間(血小板の寿命同じ)でパナルジンと同じと考えてよい。クロピドグレルの最大の特徴は「安全性」である。チクロピジンは作用が強い反面、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、無顆粒球症、重篤な肝障害などの重大な副作用が知られており、これら副作用による死亡例も報告されている。これを受け、厚生労働省は 1999年と2002年に計2回、緊急安全性情報で警告を発し、「治療開始後2カ月間は、2週間ごとに白血球算定と肝機能検査を行い、原則として1回2週間分までの投与とする」といった制限を設けている。

プラビックスはアスピリンと比較すると、約2年で心血管イベント(脳梗塞、心筋梗塞、血管死)がプラビックス:5.32%、一方、アスピリン:5.83%で相対リスク減少8.7%であった。すなわちクロピドグレルはアスピリンを8.7%上回る有意の虚血性脳卒中低減効果を示した。安全性についてもクロピドグレルはアスピリンを有意に上回っていた。
抗血栓療法トライアル CAPRIE試験(1996)
クロピドグレル群の虚血性脳卒中、心筋梗塞または血管死の発生の相対リスク低下率は7.3%(p=0.26)、脳卒中発生の相対リスク低下率は8%(p=0.28)であった。

脳卒中ガイドライン2009

症候性動脈硬化性疾患(虚血性脳卒中あるいは心筋梗塞)の既往を有する。ハイリスク例における虚血性脳卒中、心筋梗塞または血管死の発生率(3年間)は、クロピドグレル群20.4%、アスピリン群23.8%。クロピドグレル群の相対リスク低下率は14.9%であった(95%CI 0.2〜7.0%)(p=0.045)(NNTは3年の観察で29。但しこの研究の対象には日本人は含まれていない。

クロピドグレルとアスピリンとの比較試験では、クロピドグレルの服薬群の方が、心血管系の病気の発症率が9%ほど少なかった。チクロピジン(パナルジン)を対照とした二重盲検比較試験では、心血管系の病気の発症予防効果に差はなかったが、重い副作用の発現率がチクロピジンより少なかった。
チクロピジンと、クロピドグレルはアスピリンと比べて血管イベント低減効果はそれぞれ10%、12%勝っていたが、有意な差とはならなかった(ATTの報告)。
EVEREST(Effective Vasccular Event Reduction after Stroke)

抗血小板薬を服用している3452例について2007〜2008年にかけて行われた非心源性脳梗塞の治療実態についての日本初のプロスペクテイブなコホート研究。ラクナ梗塞44.5%、アテローム血栓性梗塞10.3%。脳梗塞の発症率は1年間で3.8%。
SPS3(Secondary Preventions of small Subcortical Storke)

3020例のラクナ梗塞に対する積極的な治療の有用性に関し検討を行った無作為化試験。抗血小板剤の投与で出血性合併症が心配されていたが、平均3.1年の追跡で頭蓋内出血発生率は0.28%/年と非常に少なかった。
BAT(Bleeding with Antithorombotic Therapy)sudy

抗血栓薬を服用している4009例、追跡期間19ヶ月。頭蓋内出血の頻度は抗血少板剤単剤服用群では0.34%/年。抗血小板剤併用群0.60%/年、ワーファリン群0.62%/年、抗血少板剤、抗凝固剤併用群0.96%/年
COMPASS(Clopidogrel 2 dose cOMarative 1-year ASessment of  Safety and  efficacy)
非心源性脳梗塞1110例、重篤な出血(消化管出血などを含む)は50rで1.7%、75r服用群で1.5%と両群で差なし。脳出血は0,2%/年

プレタール(シロスタゾール)

血小板内のcAMPが増加すると血小板凝集が抑制されるが、このcAMPを分解するホスホジエステラーゼ3Aを阻害する作用を持つ。経口3時間で最高血中濃度に達し、中止後48時間で血中から消失。血小板に対する作用は可逆的で、その効果は概ね薬物の血中濃度の推移と一致し、投与中止後48時間で血中から消失する。すなわち服薬後、1日で有効濃度に達するが、飲まないと1日で効果がなくなる。一方、薬を止めてから、その効果がなくなるまでの時間が短いというのが利点でもある。脳卒中ガイドラインでは、ラクナ梗塞の予防にも抗血小板剤の使用が勧められるとしているが、現時点でラクナ梗塞の再発予防に対するエビデンスがあるのは、このシロスタゾールのみである。1日2回服用する必要がある。剤形はOD錠のみに変更となった。

シロスタゾールの有効性、安全性はプラセボ対照試験で証明
―シロスタゾールにより脳卒中再発リスクが26%有意に低下  出血性イベントのリスクは54%有意に低下―

CSPS IIは、2000年に報告されたCSPSの結果を踏まえて実施された臨床試験である。CSPSは日本人の脳梗塞患者1095例を対象にプラセボを対照薬として行われた無作為化二重盲検比較試験で、抗血小板薬シロスタゾールの脳梗塞再発予防効果を検証した。その結果、シロスタゾールは脳梗塞の再発をプラセボに比べ41.7%減と、著明に抑制させた。日本人はラクナ梗塞を高頻度に発症することで知られ、CSPSでも被験者のほぼ4分の3がラクナ梗塞の患者であったが、シロスタゾールはラクナ梗塞群の再発リスクを43.4%、これも有意に低下させた。抗血小板薬の投与により一般に出血リスクが上昇するが、シロスタゾールはプラセボとの比較であったにもかかわらず脳出血を増やすことがなかったため、安全性でも優れていることが示唆された。

CSPSによりシロスタゾールのプラセボに対する優位性は明らかになったが、実地臨床では他の抗血小板薬がしばしば処方されている。そこで脳梗塞患者の脳卒中再発予防におけるシロスタゾールとアスピリンの有用性を比較した臨床試験CASISP(Cilostazol versus Aspirin for Secondary Ischaemic Stroke Prevention)が中国で行われ、2008年にその結果が報告された。

CASISPでは脳梗塞患者720例を無作為に割り付け、12〜18カ月間治療を継続した。その結果、両群の間で脳卒中再発率に有意差は認められなかったが、脳出血の頻度はシロスタゾール群で有意に低いことが明らかになった。ただし、CASISP試験は小規模であり、観察期間も比較的短いことから、そのデータだけで両薬の優劣について結論をくだすことは適切でない。このため、両薬を比較する本格的な大規模試験が求められてきた。CSPS IIはそういった意味からも注目されていた。

脳卒中学会のガイドライン

非心原性脳梗塞の再発予防には、抗血小板薬の投与が推奨される(グレードA)。

現段階で非心原性脳梗塞の再発予防上、最も有効な抗血小板療法(本邦で使用可能なもの)はアスピリン75〜150mg/日、クロピドグレル75mg/日(以上、グレードA)、シロスタゾール200mg/日、チクロピジン200mg/日(以上、グレードB)である。

非心原性脳梗塞のうち、ラクナ梗塞の再発予防にも抗血小板薬の使用が奨められる(グレードB)。ただし十分な血圧のコントロールを行う必要がある しかし、無症候性ラクナ梗塞に対する抗血小板療法は慎重に行うべきである(グレードC1)。無症候性脳梗塞の最大の危険因子は高血圧症であり、高血圧症例には適切かつ十分な降圧治療が必要である(グレードB)。降圧治療は、無症候性脳梗塞の数の増加を抑制する(グレードB)。

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