顔がゆがんだ、けいれんする

顔がゆがんだ、けいれんする

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  1. ベルの麻痺(顔面神経麻痺)
    1. ラムゼイハント症候群
    2. 末梢性顔面神経麻痺の治療
  2. 顔面けいれん
  3. 眼瞼けいれん
  4. 口舌ジスキネジア
  5.  

1.ベルの麻痺(まひ)

急に片方の顔面がゆかんでしまいました。食事中に口角(口元)から物がこぼれます

突然に起こる原因不明の顔面神経麻痺のことをベルの麻痺(特発性末梢性顔面神経麻痺)と言います。ベルの麻痺による顔面神経麻痺の起こり方は、普通、ある日、鏡を見た時に自分で、あるいは他の人に指摘されて始めて顔の半分がゆがんでいること(非対称)に気付くことから始ります。顔面神経麻痺が起こると、麻痺の起こった側の口もとが下がって、ひどい時には、口の端からよだれや食べている物がこぼれたりします。普通、顔面神経の麻痺は、起こり始めてから数時間あるいは2、3日の間、進行することが多いようです。ベルの麻痺では顔面神経が、脳より外に出てからの部分で障害を受けますので、その場合、顔の下半分の麻痺だけではなく、麻痺の起こった側の額(ヒタイ)のしわがなくなり、また、その側のマブタを閉じられなくなったりします。

ベルの麻痺は年間10万人あたり約25人の発生率と言われおり、けっして稀なものではありません。

ベルの麻痺の原因としてはウィルス(ヘルペスウィルス)の感染、あるいは顔面神経への血流の障害などではないか、と言われていますが、結局のところ現在、原因不明としか言えません。

なお、頭の中から出た顔面神経は、最初、中耳(耳の中)を通り、次に耳下腺の中を通って顔面の筋肉に分布しています。そこで、ベルの麻痺以外に、中耳炎などの耳の病気や耳下腺炎(オタフク風邪)などで顔面神経の麻痺が起こることもあります。

この顔面神経の麻痺は、50%の方では3週間以内に、25%の方ではは3ケ月以内に完全に治ります。すなわち70〜80%の方では完全に治るのですが、10〜15%の方に後遺症としての麻痺が残ると言われています。なお完全な麻痺になった場合、あるいは3週間以内に改善のきざしが出ない場合には治りにくいと言われます。

一方、もともと麻痺の程度の軽い方は回復が早く、また完全に治る可能性が高いと言われています。なお、ヘルペスウィルスによるベルの麻痺の場合、麻痺の起こる2〜3日前から耳のあたりが痛むことが多いと言われています。

いずれにしても後遺症を残さないため、麻痺が起こったら、すぐに治療を開始することが大切です。治療としてはステロイド剤、ビタミン剤などの薬物が使用されます。このステロイド剤は、通常、漸減投与といって、症状の経過をみながら、毎日少しずつ飲む量を減らしていって、最後にやめてしまうようにします。なお、ステロイド剤では稀に胃が荒れる方がおられるため、併せて胃薬(制酸剤)が用いられます。また首の部分での星常神経節ブロックという注射が有効と言う学者も多く、しばしば行なわれます。なお、ヘルペスウィルスの感染が疑われる場合には、抗ウィルス剤であるゾビラックスというお薬が併用されることもあります。

なお顔面神経の麻痺のためマブタが閉じられなくなると、目の黒目の部分が乾いて角膜に炎症が起こります。これがひどくなりますと角膜に潰瘍(角膜に穴があく)が起こることもあり、注意が必要です。角膜潰瘍は失明につながることから、その予防が大切です。そこで角膜が乾かないように点眼薬を1日に何度も点眼する必要がありますし、夜間のみテープを貼って、マブタを閉じた状態に保ったり、あるいは、ひどい麻痺のせいで、マブタが全く閉じられないような場合には、眼瞼縫合(がんけんほうごう)と言って、麻痺が良くなるまでの間、マブタを縫ってしまうこともあります。

以上の治療に併せて顔面の低周波治療や顔面筋のマッサージなどが行なわれます。

ラムゼイハント症侯群

帯状ヘルペスと言うウィルスの感染による顔面神経麻痺のことです。顔面神経の麻痺に加えて外耳道(耳の穴)後壁、鼓膜の後半分、耳介(耳タブ)後部の皮膚などに帯状疱疹の水泡を認めることが多く(85〜90%)、強い耳の近くの痛みを伴うことがしばしばです。ただ水泡は顔面神経の麻痺が出て、しばらくたってから出てくることが普通ですから、この病気であるとの診断が遅れることが多いようです。

そこで痛みを伴って顔面神経の麻痺が起こった時には、ラムゼイハント症侯群を疑った方が良いと言われます。顔面神経の麻痺に加えて舌の前2/3の味覚低下、耳鳴り、難聴、めまい等を伴うことも多いようです。 ラムゼイハント症侯群はベルの麻痺に比べて顔面神経の麻痺が後遺症となって残りやすいと言われていますので、帯状ヘルペスウィルスに対する特効薬であるゾビラックスをなるべく早期に使用することが大切です。

末梢性顔面神経麻痺の治療

お薬

  1. ステロイド薬(最も重要):神経の腫れを抑えて、神経の回復をはやめ、後遺症を少なくします。
  2. ビタミン剤(特にビタミンB12):神経の回復をはやめます。
  3. 胃薬:お薬で胃があれるのを防ぎます。
  4. 目薬(重要):眼球の角膜は「まばたき」により涙から常に栄養補給を受け、また、その水分で乾燥しないよう保護されています。顔面神経麻痺が起こりますと、その側の「まぶた」が閉じにくくなりますが、そのせいで「まばたき」が出来なくなって角膜炎を起こし、ひどい時には失明につながることもあります。そこで、乾わかないよう、1日のうち何回も目薬をさすようにします。
  5. ヘルペスウィルスが関係している疑いが強い時。:ゾビラックスと言うお薬を使います。

来院していただいた上での治療

  1. 星状神経節ブロック:首に注射する方法ですが、稀に合併症の起こることがあります。そこで当院では痛みも、副作用の心配もない星状神経節へのレーザ治療を行なっています。
  2. 顔面への低周波治療:顔面の筋肉の衰えを防ぐ治療です。

家庭で行なうこと

  1. 目薬を何度もいれること。
  2. 麻痺した側の顔面のマッサージを自分で行なうこと。

2.顔面けいれん

目の回りの筋肉が勝手にけいれんするようになり困っています。40歳、女性、数ケ月前から目の回りの筋肉がけいれんするようになり、恥かしくて外出も出来ません。なんとかならないでしょうか。

顔面けいれんとは顔面の半分の筋肉が自分の意志とは関係なく、勝手にけいれんする病気のことです。始めは目の周囲の筋肉から始ることが多く、日時がたつにつれて顔面の半分の全体にひろがって行くこともあります。

目の回りの筋肉だけがけいれんしているような場合、顔面けいれんなのか、あるいは他の病気なのか分かりにくい場合もありますが、目の回りと同時に、口角の外側(唇の端)がけいれんしている場合は、この病気に間違いがありません。

この病気は女性に多いこともあって、美容状の問題で悩む方が多くみられます。顔面けいれんは顔面神経麻痺の後遺症として起こることもありますが、それ以外の原因不明のものが圧倒的に多いようです。

ところがこの、これまで原因不明と考えられていた顔面けいれんのほとんどが、実は、頭の中で顔面神経が、動脈硬化を起こした血管によって圧迫されるために起こると言う事実が最近、分かったのです。実際、手術を行なって顔面神経と、それを圧迫している血管の間をはがして、その間に小さなスポンジをはさみ、顔面神経への圧迫をとってあげますと、劇的に顔面けいれんが治ることがしばしば経験されます。

この手術のことを顔面神経減圧術と言い、現在、脳神経外科の施設ではひろく行なわれるようになっています。頭の中の手術と言うと抵抗を感じる方も多いようですが、美容状の問題から外出出来なくなって、ずっと家に閉じこもったままの女性もおられると聞きます。また、ひどい時には、世をはかなんで自殺するような方もあることから、そこまで思い悩む位なら、一度、手術を考えてみても良いのではと思えます。

手術以外にはテグレトールあるいはアレビアチンと言う飲み薬が効果のあることがあり、以前から顔面けいれんの治療に用いられてきました。テグレトールは飲み始めの時期にフラツキがみられることがあります。そこで、普通、少量の薬から始めて、少しずつ飲む量を増やして行くと言う飲み方が行なわれます。なお、この薬は神経痛、あるいはてんかんの方の発作を抑えるために使用されることもあります。

ボツリヌス療法

ボツリヌス菌という細菌が作り出すボツリヌス毒素(薬品名 ボトックス)の作用を利用して筋肉のけいれんを抑える治療法です。ます。このボツリヌス菌は食中毒の原因として知られていますが、この毒素を少量だけ痙攣している筋肉に注射しますと、その筋肉がゆるみ、けいれんや緊張がおさまります。普通、その効果は3〜4か月後続きますが、その後元に戻ってしまいます。そこで、症状が再発したころを見計らって、繰り返し注射することになります。「手術は怖い」、「毎日、薬を飲むのは面倒だ」という方にお勧めしています。

3.眼瞼(がんけん)けいれん

眼瞼けいれんのことを英語ではブレファロスパズムと言います。この病気は目の回りの筋肉が自分の意志とは関係なくけいれんし、さらに収縮するために数秒から数十秒の間、マブタが閉じてしまって開けられなくなる現象のことを言います。

一般に身体の一部が無意識に動くことを不随意運動といい、そのなかには振戦、ジスキネジア、ジストニアとよばれる現象などがあります。ジストニアとは、身体の筋肉が不随意に収縮し続ける結果、筋肉がねじれたり、ゆがんでしまって自分の意思通りに動かなくなる病気で、その中に眼瞼けいれんや手や腕に起こる書痙(しょけい)があります。この原因としては、いろいろな体の動きをコントロールする脳の大脳基底核というところに障害が起こるためと考えられています。

眼瞼けいれんは、両側の目の回りにある眼輪筋に起こったジストニアの一種で、自分の意思とは関係なく筋肉のけいれんが繰り返して出現する病気です。始めは、下眼瞼部のピクピク感、眼瞼の刺激感や不快感、まぶしい感じ、まばたきの回数が増えるなどの症状がみられ、次第に、このけいれんが上眼瞼部に進行し、眼瞼が頻繁に攣縮するようになって、そのせいで、マブタを開けられなくなることもあります。症状には軽度の左右差がみられる場合もあります、通常、両側対称性に認められます。サングラスを掛ける、眼帯をする、歌を歌う、ガムを噛むなど刺激により、一時的に症状が軽くなることあります。起きてすぐの間は症状が軽いことが多いようです。

4.口舌ジスキネジア

老人には、顔面、口、舌などに不随意運動が比較的多くみられますが、口の周囲の不随意運動としては、口をモグモグさせたり、くちびるをとがらせたり、歯をむき出しにしたり、舌をぺちゃぺちゃさせたり、下あごを左右に動かすなどいろいろな運動があります。その中で最も多いタイプがこの口舌ジスキネジアです。口舌ジスキネジアは、一般に精神的緊張で悪化し、一方で夜寝ているときや意識的に止めようとするとき、気持ちをほかに向けるときには止まってしまうことがあります。多くは60歳以上の老人にみられ女性に多い傾向があります。

口舌ジスキネジアは、大脳の黒質線状体、中脳などにある脳内のドパミン(神経伝達物質)神経の働きの異常によると考えられています。この口舌ジスキネジアに対しては、チアプリド(商品名 グラマリール)、スルピリド(商品名 ドグマチール)、ハロペリドール(商品名 セレネース)などのドパミン遮断薬を用います。それ以外に老人の方で頭が勝手にふるえて困っておられる方がかなりおられますが、同様のお薬が効果を発揮することが多いようです。

 
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